宣戦布告?
朝から思いも寄らぬ吉報をもたらされたものの、その後の瑞希はいつものように客たち一人一人に誠意をもって対応していた。アーサーをはじめとした他の従業員たちにもいつもと違った様子は見受けられず、話を聞きつけてやってきた者たちは誤報だったのだろうかと訝しんで首を傾げる。けれどカウンター奥に飾られた見慣れない賞状や飾り盾に領主の徽章が刻まれているのを見つけて、話はやはり正しかったのだと再認識した。
「普通、もっと狂喜乱舞するものなんじゃないのかい? それとも、まだ現実と受け止められていないのかい」
どこか呆れたような口ぶりで物申すのは、双子たちの婆を自称するマリッサだ。「おちびちゃんたちに」と恐らく手作りの菓子が入っているだろう小包を渡されながらのお小言に、瑞希は二重の意味で戸惑った。
「今はほら、仕事中ですから。後回しにしてしまうのは申し訳ないですけど、お昼休みに各方面にお礼状を認めるつもりです」
「そういうことを言ってるんじゃないよ」
ぴしゃりと叱責されて、瑞希は思わず首を竦めた。じゃあどういうことなのかと恨みがましい目をマリッサに向けても、豪胆な彼女に効くはずもなく鼻を鳴らされて終わってしまう。けれどそれも長くは続かず、仕方のない子だねと柔らかな微笑と入れ替わった。
「律儀なのはアンタの美徳だからね。これはもう、こっちが割り切った方が楽ってモンなんだろうさ」
やれやれと大仰に肩を竦めて首を振るマリッサに、あははと瑞希の口から乾いた笑いが零れる。
「でもね」と言葉を継いだマリッサは、ぎらりと獲物を見つけた時の目で瑞希を見た。
「アンタは周りにはとんでもなく気を遣うクセに、自分のことになるとちっとも気にしない。どうせ言ったって変わりゃしないんだろうから、こっちはこっちで好きにさせてもらうよ」
「はい?」
思わず取り落とした紙袋が、ぼすんと音を立ててカウンターに落ちる。あ、と瑞希が顔を下向けると同時に、マリッサが手を伸ばしそれを取り上げた。代わりに置かれるのは千デイル銀貨二枚、代金ぴったりである。
「じゃあ、詳しいことは決まったら追って連絡するよ。手当たり次第声かけて、全力を尽くしてやろうじゃないか。覚悟しておくんだね」
にやりと豪気に口角を上げ笑んだマリッサが、歳を感じさせない軽快な動きで颯爽とカウンターを離れていく。肩で風を受け先を行く彼女に、人波は自然左右に割れた。
からんとドアベルの音とともに、マリッサが《フェアリー・ファーマシー》を後にする。
「…………え?」
不穏な言葉を言い残された瑞希は唖然とした。出入り口を見たまま固まっている瑞希に、次の会計客は同情的な眼差しを向ける。
「あー……ミズキ。大丈夫だよ、多分。マリッサだし、悪いようにはしないと思うよ……きっと」
端々に不安を滲ませる歯切れの悪いフォローに、瑞希はひくりと頰を引きつらせた。




