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経緯

 「あの、きっとご存知ないのだと思うのですが、スポーツドリンクが広まったのは私だけの力ではないんです。なので、私個人が特別功労賞を頂くことはできません」


 せっかくご足労頂いたのに、と申し訳なさそうな顔で謝罪する瑞希に、周囲は驚愕し目を見開いた。我に返った者から考え直せと慌てて声を上げるけれど、瑞希は自分の意思を変えるつもりはなく、再度申し訳ありませんと頭を下げる。

 しかし、どうやらベンジャミンは瑞希の反応を予め想定していたらしい。謝る必要はない、と優しく彼女の上体を起こさせた。その表情にも、優しい笑みが浮かんでいた。


 「今回のことに多くの関係者がいることは存じております。けれどそれを承知の上で、貴女個人に……いえ、《フェアリー・ファーマシー》に行賞することが決まりました。他の関係者たちは、受賞を辞退しているのです」


 瑞希は驚きに目を見開いた。

 ベンジャミンは語る。

 ベンジャミンが領主であるダグラス老から特別功労賞授与の使者の任を命じられたのは先月の頭、まだ盛夏と称されていた頃だ。特別功労賞は滅多に贈られる賞ではなく、受賞はもちろん、領主名代としてその使者に任じられることも非常に栄誉なことで、ベンジャミンは当然喜んで拝任した。その当初はスポーツドリンクの流通関係者全員を一つの団体と捉えて行賞すると決まっていたのだが、しかしいざ彼が各所に足を延ばしてみると、街医者にしろ薬売りにしろ、全員が全員同じ言い分で以って受賞を固辞すると言い出したのだ。


 『自分たちは、ミズキの案に乗っただけに過ぎない。そのおかげで十分な利益をもらっているのだから、これ以上を望むつもりはない』


 まさか辞退する者が存在するとは毛頭思っていなかったベンジャミンは途方に暮れ、指示を仰ぐべく領主邸に急ぎ帰還した。そしてダグラス老に事の次第を伝えた結果、《フェアリー・ファーマシー》にのみ授与することが決まったのだ。


 「『見事な人格者よ』、と。他の関係者たちにも貴女にも、領主様はたいそうお喜びのご様子でしたよ」


 そう言われて、ミズキたちの脳裏に大笑いするダグラス老の姿が思い浮かぶ。かの老人であればあり得ると、妙な納得があった。

 ぽかんと呆けていた瑞希に、ベンジャミンはもう一度祝辞を述べる。


 「薬屋 《フェアリー・ファーマシー》店主、ミズキ・アキヤマ殿。特別功労賞の授与、心よりお祝い申し上げます」


 お受け取りくださいますね、と。ベンジャミンは慎重な手つきで取り出した賞状と飾り盾を恭しく捧げ持ち、瑞希に差し出した。

 他の誰もが受賞を断った時点で、功労賞は別の意味を持った。これは、数多くの協力者たちからの、感謝でもあるのだ。

 瑞希は意を決し、居合わせた客たちの笑顔に見守られながら、謹んでそれらを拝受する。


 「--有難く、頂戴致します」


 店中から、一際大きな歓声が上がった。

 それに瑞希は照れ臭そうな、けれど誇らしげな笑みを浮かべ、客たちに向き直る。

 このことは、瑞希一人で成し遂げたことではない。口添えしてくれたロバートや拡散に協力してくれた薬売りたちはもちろん、客たる彼らの助力もあったからこその成果だと正しく理解していた。

 真心には真心で以って返す。

 だからこそ、瑞希は彼らに心からの感謝を込めて礼を捧げる。

 その姿に、また盛大な拍手が響き渡った。

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