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本題

 何の持て成しもしないというのはさすがに憚られたのでスポーツドリンクをベンジャミンに手渡すと、彼は何故かじっくりとそれを見つめた。興味津々な様子で口をつける姿を視界に入れつつ、少し離れた所に瑞希も腰掛ける。ベンジャミンはぐっとスポーツドリンクを飲み干した後、厳しく見える顔をほっと和らげた。


 「これが噂のスポーツドリンクか。評判通り甘すぎなくて飲みやすいな」

 「お口に合ったなら何よりです。おかわりはいかがですか?」

 「頂こう」


 間髪入れずに返されて、一瞬面食らいながらも嬉しさが勝り、瑞希は人好きのする笑みを湛えつつおかわりのスポーツドリンクを注いだ。その肩では、念のためと付き添ってくれているルルが呆れたような驚いたような、何とも言えない顔をしている。

 ベンチから少し離れた所では、さりげなくを装っているつもりなのか、客たちがそわそわと落ち着かない様子で二人のやり取りを伺っていた。店を任せたアーサーでさえ、心ここに在らずといった態度が見て取れる。


 「ずいぶんと愛されているようで」

 「ええ、有り難いことです」


 互いに苦く笑い合い、ベンジャミンがごほんと一つ咳払いする。

 始まりを感じた瑞希は背筋を伸ばし、彼に向き合った。


 「まずは確認だが、薬屋 《フェアリー・ファーマシー》店主、ミズキ・アキヤマ殿。貴女は他国からの移住者と聞くが、間違いないか?」

 「はい」

 「では今年、この国の夏が例年を遥かに上回る酷暑だったことはご存知か?」

 「聞き及んでおります」


 当たり障りのない確認事項にも、瑞希はしっかりと答えていく。

 ベンジャミンはそれで多少為人(ひととなり)を判断したのか、やや真剣味を帯びた声音で次の質問を繰り出した。


 「--このスポーツドリンクの発案者が、貴女であることは間違いないか?」

 「はい、間違いありません」


 気迫さえ感じる問いかけに、肩に座っているルルが一瞬飲まれ、息を飲んだ。

 これが本題か。瑞希は表情を引き締めた。

 今のところ、スポーツドリンクが原因で何か問題が起きたとは聞いたことがない。度々届く報告の便りにも、順調好調と書かれていた。

 けれどもし、(あずか)り知らぬところで何かあったのだとしたら……。

 脳裏をよぎる不安を理性で制し、瑞希は黙してベンジャミンの言葉を待った。もし何かあったのであれば、責任を逃れることは瑞希自身が許せない。

 覚悟を決めた目で真っ直ぐに自身を見てくる瑞希に、ベンジャミンは数拍真顔でそれを見返し、やがてすっくと立ち上がった。

 びくりと、瑞希とルルが体を跳ねさせる。

 また恐ろしい目に遭うのかと蒼褪めた彼女たちに、しかしベンジャミンは今までの固い表情は何処へやらいかにも友好的な笑みを浮かべ、口調も丁寧な言葉遣いに改めた。


 「--おめでとうございます。此度の功績により、貴女には特別功労賞が授与されることが決まりました」


 心よりお祝い申し上げます。

 そうして頭を下げられ露わになった彼のつむじを、瑞希はぽかんと口を開けて見つめていた。

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