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 大繁盛の営業時間を乗り切り、疲労と開放感に浸る夕暮れ時。

 ディックは予め瑞希に話を受けていた通り直帰することはなく、家に上がりリビングで体を休めていた。胡座をかいた左右の膝をカイルとライラが膝枕にして寝転んで、窪みにはモチが我が物顔で陣取っている。彼には見えていないが、モチの背にはさらにルルが寝そべっていた。

 そんなおいそれと身動きしにくい現状にディックは苦い微笑を浮かべているが、したいようにさせているあたり兄貴分が板についている。

 そこに、アーサーが声をかけるでもなくつっけんどんにグラスを突きつけた。ぷかりと氷の浮かんだそれを受け取って、ディックは体をあまり揺らさないように気をつけながらまずは一口アイスティーを煽る。

 ディックが一息吐いたことを確認して、瑞希が話を切り出した。


 「今日、ちょっとカウンター外で話してたでしょう? 実は、馬車組合の方からスポーツドリンクの定期購入の申し出があったの」


 どうしてわざわざ《フェアリー・ファーマシー》に依頼してくるのかという事情も添えて話を進めれば、アーサーとディックは何とも言えない顔で深く息を吐いた。


 「なんというか、すごいな。店ではサービスで配れているのに、街ではそんなことになってたのか」

 「似たような話は聞いたことあるなぁ。今年はオレンジとかは炭酸ジュースの材料に使われてるから、市場でも青果としてはしてはあんまり出回ってないらしいよ。めちゃくちゃすっぱいのに大豊作の難有り果物だったのに、って果樹園のおばさんたちは大喜びしてたけど」


 どうにも実感の湧かない様子で呟いたアーサーに、ディックが持ち前の情報収集能力で得ていた話を知らせる。それは瑞希も知らなかった話で、思わず開いた口を片手で覆った。

 けれど、いつまでも前振りのままいるわけにもいかない。瑞希は表情を引き締めて、話題を定期購入の依頼に戻した。


 「組合からの依頼、受けたいと思ってるの」

 「いいんじゃないか? 商売なんだから、売れるなら願ったり叶ったりだろう」

 「それは、そうなんだけど……。今でもたくさん手伝ってもらってるのに、きっとさらに助けてもらわないといけなくなるわ」


 それでも本当に引き受けていいの? と不安混じりの目で問う瑞希に、答えたのはディックだった。


 「ミズキは、変に気を遣いすぎなんだよ。店主はミズキなんだから、もっと堂々として、強気になっていいんだよ。ミズキが引き受けたいっていうなら、オレだって頑張っちゃうし」


 にひひ、とお調子者めかして笑うディックに、アーサーも反論せず無言で肯定する。


 「まあ、それができないのがミズキなんだけどねぇ〜」

 「ママだもんねぇ」

 「うん、母さんに強気は似合わないよね」


 子供たちにまで当然とばかりに言われて、瑞希は困惑した。


 「結構、好き勝手やらせてもらってると思うんだけど……」

 「どこが?」


 五人から口を揃えて切り返されて、瑞希は口を噤んだ。おかしいなぁと首を傾げながらも、みんなの協力が得られることは確定したので、それならいいかと雑事を思考から切り離す。


 「それじゃあ、組合には引き受けると回答するわ。また忙しくなるけど……みんな、協力よろしくお願いします」


 ぺこりと頭を下げた瑞希に、言葉は違えど返した内容はみんな同じだった。


 (みんな、本当に頼もしいなぁ。私も、気合い入れて頑張ろう!)


 決意を新たに固めた瑞希が固く拳を握る。意気込みを表すようなそれに、ミズキらしいと五人が微笑んだことに、本人だけが気づかなかった。

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