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まるで

 御者との話に区切りがついたところで、早買いの客がちょうど会計に向かってくるのが見えた。

 瑞希の視線の変動に気づいた御者は、「忙しいのに悪かったね」と嬉しそうに微笑んで、「前向きに頼むよ」と言い残し店外へと出て行く。

 瑞希は早足でカウンターに戻り、会計作業を始めた。

 改めて客の買う物を意識してみると、薬の方が多いものの、やはりスポーツドリンクもよく売れていることに気がついた。街外れの、しかもサービスとしてもスポーツドリンクを提供している《フェアリー・ファーマシー》でさえそうなのだから、街中の薬屋はもっとスポーツドリンクを求められていることだろう。

 スポーツドリンクは、あくまで予防に効果があるだけだ。あった方がいいというだけで、なければならないわけではない。

 売り手にも買い手にも周知させたそれは瑞希も重々承知しているのだが、御者の表情を思い出すと、やはり何とかしてあげたいという気持ちが強くなる。


 (まずは、みんなに相談ね。もし引き受けられるなら、受け渡しとかも話し合わなきゃ)


 瑞希は頭の中を整理しながら、早くも出来始めた会計待ちの客を処理すべく目の前の仕事に打ち込んだ。

 会計の列は時間が経つ程長くなっていった。途中からアーサーやディックが袋詰めを手伝ってくれたが客足が途絶えることはなく、次の定期馬車が来るまでそれは続いた。

 一旦落ち着いたとはいえ、それが束の間の休息であることはよく理解している。けれど今を逃せば次に一息つけるのはだいぶ先だからと、瑞希はこの隙にディックに話しかけた。


 「お店が終わった後に少し時間をもらいたいんだけど、都合大丈夫?」

 「別にいいけど…………なになに、もしかして告白?」


 明らかに冗談とわかるディックの様子に、もう、と瑞希が呆れた顔をする。一方で、アーサーはいかにも不機嫌な顔をして、ごつんと強めにディックを小突いた。


 「いってー! なんだよ、ミズキ取られそうだからってさぁ」

 「馬鹿を言うな」


 大仰に声を上げるディックにぴしゃりと言いつけて、アーサーはぐっと眉間に皺を寄せた。


 「ミズキがお前に話すことなんて、仕事か金物か双子のことくらいしかないだろう」

 「…………結構多くない?」


 確かに。

 すっかり蚊帳の外にされていた瑞希も内心で同意した。

 アーサーは多くないと食い気味に言うが、それが面白いのかディックはからかうようにけらけらと笑い声を上げる。するとアーサーは眉間の皺を深くして「もう一発いくか?」と低い声で言うものだから、今度は瑞希が耐えきれなくなって笑い出した。

 目尻に涙が滲むほど笑う瑞希に、アーサーとディックは言い合うのを止めて互いの顔を見合わせる。打ち合わせたわけでもないのに動作が揃った二人に、瑞希はいっそう笑いが止まらなくなった。


 「二人は、なんだか兄弟みたいだわ」


 真面目な兄と、おちゃらけた弟。なんだか妙にしっくりくる。

 けれど当事者二人はそうでもないようで、口をへの字にした不満顔で首を振った。


 「こんな軽薄な弟は願い下げだ」

 「はぁ? オレだってあんたみたいな堅物兄貴はごめんだよ!」


 そんな風に言い合う姿に、瑞希は堪らないとさらに笑う。いつにない大人たちの賑やかな様子に、遠目に見ていた子供たちは不思議そうに顔を見合わせていた。

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