優しい約束
「子供たちには言うのか?」
「うん、あの子たちも家族だから」
信じてもらえるかわからないけど、と僅かに不安を垣間見せる瑞希にアーサーは大丈夫だろうと太鼓判を押した。そうだといいな。子供が夢を語るように呟く瑞希にもう一度大丈夫だと重ねて、アーサーは目元を和ませていた。
「ねえ、アーサーは何の仕事をしているの?」
ルルが尋ねた。アーサーには聞こえないその声を瑞希が代弁する。
それは瑞希も気になっていたことだ。アーサーの旅が仕事によるものだろうと予想はついたが、それにしたって多すぎる。金貨一枚で一万デイル、仕事帰りとはいえそれを袋にいっぱいまで持っているからには相当な高給取りであることがわかる。
瑞希も時の人となった現在だが、利益重視ではないとはいえずいぶんな高所得者になった。しかしそれでもアーサーの蓄えには及ばないだろうことは想像に難くなかった。
「それは…………今は、言えない」
「危ない仕事ってこと?」
瑞希の声に不安が滲む。ルルも心配そうにアーサーを見上げていた。
アーサーは否定はしなかった。
危なくないとはいえない。けれど人に恥じるような仕事ではないから安心してほしいと不器用に言葉を紡ぐアーサーは、まっすぐに瑞希を見つめていた。
「隠し立てして本当に済まない。言い訳にしかならないが、どうしても言えない事情がある。迷惑をかけることはしないから、どうかここに置いてほしい」
そう懇願するアーサーを疑う気持ちは瑞希にはない。ルルも心配を隠せない顔ではあるけれど、それがアーサーの身を案じてのものであることは言われずとも見て取れた。
「私は、言ったことを変えるつもりはないわ」
誰にだって言いたくないことはある。それがわからないほど狭量な人間ではないつもりだ。働くからには守秘義務が発生することも身に染みて知っている。
瑞希がアーサーを案じるのは、自身や子供たちのこともあるが、何よりアーサーがお金のために無茶をしていないのかが心配だった。
生真面目な性格のアーサーは、一時とはいえ親になったことで今まで以上に精を出すだろう。それが瑞希には気がかりだった。
お金はあるに越したことはないけれど、それよりも大切なものがある。瑞希にも収入源はあるのだから、自分一人で背追い込まないでほしい。
「言えないことは言わなくていいよ。でも無理はしないでほしい。怪我や病気を隠したりしないで」
約束してくれる? と見上げる瑞希に、アーサーはわかったと頷いた。
「約束する。無理はしない。ちゃんとここに帰ってくる」
瑞希はようやく顔を綻ばせた。よかった、と大きくはない声は安心と喜びで優しく響いた。




