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2018年歳末に寄せて4

 停留所は店のすぐ前とはいえ、家の玄関からでは少し距離がある。子供たちはちょっと風が吹くだけでも大騒ぎして、暖を求めて互いにくっつきあった。真ん中に挟まれたモチはぎゅうぎゅうと押し潰されて、少し苦しそうにしている。


 「お前たち、もう少し加減してやれ。モチが辛そうだろう」


 アーサーが嘆息とともに嗜めると、子供たちは残念そうにしながらも「ごめんね」とモチに謝り少しだけ体を離す。てしっ、とモチが前足で叩いた。どうやらお許しが出たらしい。

 短い距離をやっとの思いで進んで着いた停留所は、枯れた枝葉が所々に落ちていた。それらをルルに魔法の風で一箇所に集めてもらい、瑞希たちは道の尖った石を拾っては傍に寄せていく。

 枯葉は、モチが容易く埋もれそうなほどの量が集まった。モチは相当に食い意地が張っているが、ハーブや果物に味をしめたのか、枯葉の山にはあまり興味を示さず、子供たちにじゃれついている。


 「あとはこれを燃やすだけ?」


 指先に小さな火を灯して尋ねるルルに、待ったをかけたのは瑞希だった。

 瑞希は訳も言わず、小走りで家の中へと戻っていく。かと思えば、紙袋を両手で抱えて走って戻ってきた。


 「何を持ってきたんだ?」

 「お芋よ!」


 自慢げに袋の中身を見せつけてくる瑞希に、アーサーはますます分からず首を傾げる。それは双子も同じで、瑞希が思ったような反応は得られなかった。


 「せっかく焚き火するんだし、焼き芋しようと思ったの。みんなも、たくさん頑張ってお腹空いたでしょう?」

 「焼き芋……」


 物慣れないような口ぶりでアーサーが鸚鵡返しした。まじまじと芋を見下ろす目には、未知のものに対する好奇心が宿っている。

 双子は、とりあえず食べ物らしいとは認識したらしく、空腹を思い出したように腹に手を当てていた。


 「じゃあ、お願いね」


 瑞希の一声で、ルルが枯れた枝葉の山に火をつける。乾燥したそれらは簡単に火を燃え移らせ、やがてぱちぱちと小さな破裂音を生み出した。

 冬の寒空の下でも、火の回りは温かい。焚き火を取り囲んで暖をとりながらしばらく待っていると、先に枯葉が燃え尽きて枝が残った。

 枝が炭のように赤くなって燃えるその頃合いに、瑞希が芋を投入する。あとは、焼けるのを待つだけだ。普通の焚き火での焼き芋だと火が通るまでにかなりの時間を要するが、今回の焚き火はルルの魔法によるものなので火加減もばっちりだ。試しにと芋に串を刺してみれば、普通よりも幾分か早いというのにすんなりと貫けた。焼き芋の完成である。

 焼きたての芋は手で持てないため包み紙を渡して、一人ずつに配っていく。

 瑞希も自分の分を包み紙で持って、手本を見せるようにみんなの前で真ん中のあたりを半分に割った。すると、黒くなった皮の中からほっくりとした黄金色が露わになる。

 食べ方がわかれば、後は早かった。


 「んっ、熱、んー!」

 「見た目のわりに、美味いな」


 はふはふと口に冷たい空気を入れながら、柔らかな顔で焼き芋に齧りつく。少しの舌の火傷も今はご愛嬌だ。

 モチにも冷まして分けてやると、気に入ったのか両前足で瑞希の手を掴むようにしてもっととねだってきた。伸び上がるようにして焼き芋に食らいつこうとするほどの食いつきぶりに、来年のモチはもしかしたら早々にダイエットが必要になるかもしれないと、みんなで笑った。

 今年も残すところ数時間。その短い時間にどれだけのことができるかと思いながら、瑞希は間も無く来る来年に思いを馳せた。

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