2018年歳末に寄せて1
「これから大掃除の計画を立てます!」
朝ご飯の席で堂々と宣言した瑞希に、家族たちは今年もこの時期がやってきたのだと改めて感じた。
昨年の年の瀬を迎えた時にも、彼女は唐突にそんなことを言い出したのだ。四人は、毎日どこかしらを掃除する瑞希の姿を見ている分疑問も強かったが、話を聞いてみると彼女の故郷の風習だとわかった。
日本ーー瑞希の生まれ育った国では、大晦日と呼ばれる毎年の最後の日に一年の汚れを清める大掃除なるものをして、間もなく来る新年を迎える準備としていたのだとか。
それは瑞希と出会うまでずっと妖精の集落で生活していたルルはもちろん、アーサーたちにも馴染みのないことだったが、家を綺麗にすることに不満はない。今年も昨年同様二つ返事で頷いて、瑞希の宣言通り家族みんなで計画を立てることになった。
というのも、瑞希たちの暮らす家は広い。居住空間だけでも二階分あり、地下には源泉掛け流しの温泉まである。さらには家に併設されている店舗空間や薬草畑、馬やヤギがいる畜舎まであるため、ルルの魔法の力を借りても到底一日だけでは終わらないのだ。
「馬車の行き来も増えたから、出来れば停留所も綺麗にしておきたいのよね」
「そっちは枯葉を集めるだけで大丈夫じゃない? あたしは動物たちが気になるわ。畜舎もだけど、あの仔たちも綺麗にしてあげましょうよ」
「となると、馬は俺の分担だな。訓練してあるとはいえ、万が一ということもある」
話し合いに耳を傾けながら、瑞希が書記として紙に掃除の場所やそれぞれの名前を書き込んでいく。それらが大方出揃ったところで、ようやく誰がどこを分担するかを決めるのだ。瑞希とアーサーはそれぞれ一人で、子供たちは小さい分苦労も多いため三人一組としての組み分けにしてある。
「一番乗りで終わらせようよ!」
意気込みの見て取れる表情で片割れと姉とを振り仰いだカイルに、ライラもこくこくと頻りに頷いていた。
チームになって何かに取り組む、ということは、子供たちの好奇心ややる気を煽る何かがあるらしい。
ルルは頷き合う弟妹に苦笑を零した。
「急ぐのはいいけど、お掃除はきっちりしっかりね」
「わかってるよー!」
少しむくれた表情で言い返したカイルに、笑い袋を擽られたのは本人には秘密だ。
(こうなると、なんだかイベントみたいよねぇ)
瑞希はしみじみと思いながら、早くも作戦を練っている子供たちに柔く目を細めた。
マンションに一人暮らしをしていた頃はどうしても面倒に思えてしまって、大晦日の一日で済ませていた。幼少期も、今のカイルたちのように掃除に対して張り切ったりすることはなく、年越しそばや年明けのおせちを楽しみにして熟していた気がする。
正直をいうと、今でも大掃除は大変だと思っている。範囲がさらに増えたのだからなおさらだ。
けれど、面倒とは思わなくなった。自分一人で、自分のためだけにやるわけではないから。
(私も負けてられないわねぇ)
母としての腕の見せ所。
瑞希は笑顔の下で密やかに、ほんの少しの競争心を抱いた。




