穏やかな昼下がり
ばくりと豪快にサンドイッチに齧りつくディックを真似するように、カイルもあーんと大きく口を開けてバゲットに歯を立てる。ディックは上から下まで噛むことができたが、カイルにはそれができず切れ込みまでをなんとか口に入れた。リスのように頰をぱんぱんに膨らませているくせに、負けず嫌いを発揮したカイルは不満顔でサンドイッチを睨みつけている。
それに笑い袋を擽られながら、アーサーと瑞希は行儀良く少しずつ齧った。ライラは少しだけ迷うようにディックと両親とを見比べ、やがて手に持ったサンドイッチに向かって小さく口を開けた。
昼食を食べ終えたら、双子が薬草畑に赴いて、手入れがてらに自分たちも水を浴びる。アーサーとディックは剣の稽古を一試合分だけ行って、汗を流すついでに双子の水浴びに合流した。
「あーあ、みんなびしょびしょだわ」
「いいじゃない、楽しそうだし。この暑さだもの、きっとすぐに乾くわ」
仲間に入れずつまらなさそうに不満を零すルルに、瑞希がころころと笑いながら宥める。不貞腐れているのに「ディックがいなければ」なんて言い出さないところはルルらしい。
瑞希とルルがのんびりと見守っている間にも笑い声は途絶えることがない。木桶に貯めた水を勢いよくかけられて、双子がきゃあきゃあと可愛らしい悲鳴を上げながら笑っていた。
びしょ濡れのライラに助けを求めるように抱きつかれて、同じく濡れたアーサーが心得たと抱きとめる。
カイルはもっとと強請って、ディックが任せろと木桶にまた水を汲んだ。
「よーし! お前ら、いくよー!」
ディックが、掛け声とともに木桶を大きく横に振るう。
「あ!」
カイルが声を上げた。つられるように、アーサーとディック、ライラもカイルの視線の先を目で追った。
「あら」
「わぁっ」
瑞希とルルも嬉しそうに微笑んだ。
投げ出された水が空気中で粒となり、陽の光を反射してキラキラと輝いている。その中に、淡い七色の曲線を見た。
カイルが口角を上げながら何事かを言おうとする。
瞬間、雨のように双子に降り注いだ。
「わぁああっ⁉︎」
わかっていたはずのことなのに飛び上がって驚くカイルに、みんなで大きな声を上げて笑った。
カイルは当然恥ずかしそうにしたが、それよりもと瑞希とルルの方へ掛けてくる。
「ねえ、今の見た⁉︎ 虹!」
「見た見た、綺麗だったわ」
応えたのはルルだった。瑞希は微笑んで頷くだけだったが、それでもディックには会話が成立しているように見えた。
「あんまりはしゃぐと、また疲れるぞ。昼も店があることを忘れるなよ」
「だって父さん、虹だよ⁉︎」
大興奮で言い返してきたカイルに、そうだなとアーサーは苦笑いする。何が「だって」なのかわからないが、楽しそうだからまぁいいか、と絆されているのがよくわかった。
ディックはアーサーを指差しながら声を押し殺して笑う。それに気づかれないはずはなく、アーサーがディックにやや強めの拳骨を落とした。
和気藹々とした--少し変わってはいるけれど、これもまた家族団欒というに相応しい時間を、瑞希たちは穏やかに笑い合った。




