五人より六人
時にはそんな思いがけない事に遭遇しながらも、ディックは《フェアリー・ファーマシー》でよく働いてくれた。もともと常連客の一人として薬屋に足繁く通っていたこともあり、商品の配置には詳しいのだ。瑞希や子供たちにとっては重い箱も軽々持ち運べるので補充の速度が上がり、棚には常に商品が並んでいる。
それだけでも大助かりだったのだが、ディックは意識的にか無意識か、双子のこともよく気にかけてくれていた。デキャンターの中身が無くなる前に新しいものを持ってきたり、合間を縫っては双子に一息吐かせたりと、とにかく気配りが上手かった。
これにはアーサーも感心して、ルルも「……やるじゃない」と比較的素直な賞賛を贈っていたほどだ。
わからないことは素直に聞いてくれることもあって店は予想以上に順調に回り、気づけば午前の営業が終わろうとしていた。
いつもよりあっけない時間の経過に、なんだか肩透かしを食らった気分になる。けれどそれは今までを基準としているからであって、ディックが加わった今日も十分忙しかったことは自覚していた。
瑞希がルルに目配せして、ルルがアーサーやカイルとライラに昼休憩が近づいてきていることを伝える。ディックにはアーサーから伝えてもらい、一同が一時閉店に向けて準備を整えだした。
店側のことは五人に任せて、瑞希は会計業務に専念する。カウンター周りに留まっていられたおかげで備品も十二分にある。支払いにやってきた客から商品を受け取っては代金を受け取り、次の客の対応へと移行した。
そして最後の客に商品を詰めた紙袋を手渡したところで、ちょうど馬車が到着する。御者は辺りに乗り遅れた客がいないことを指差し確認すると手綱を握り、瑞希たちに会釈代わりに片手を上げて街へ向けて出発した。
それを見送ってからが、《フェアリー・ファーマシー》の昼休憩だ。瑞希とルルがキッチンに立ち、ディックたち四人はリビングでしばらく休息する。ディックとの雇用契約は、昼食付きで結んだのだ。
万が一に備えて、カイルとライラにはディックを左右から押さえておいてもらう。
「ルル、お手伝いよろしくね」
「まっかせなさい!」
瑞希はルルと頷き合った。
ルルが楽団を指揮するように大きく両腕を振るう。途端、収納されていた棚から鍋が飛び出し、備蓄庫からは野菜が飛んできた。野菜は大きな水球の中で泳がせるように洗って、土や汚れを落とした物から瑞希が包丁を入れていく。
ルルは野菜を洗い終わるとサラダ作りに着手した。レタスを千切り、キュウリをスライスして彩りにトマトと、食感のアクセントにクルトンを少々。今日はシンプルにグリーンサラダらしい。同時進行で、作り置きしておいたカボチャの冷製ポタージュもスープカップに注いでいた。
一方、瑞希も料理の手際の良さなら負けていない。炒めて味を整えて、あっという間に完成させたジャーマンポテトと、小ぶりのバゲットに切れ込みを入れて具材を詰めたサンドイッチ。小鉢にはニンジンやカブの自家製ピクルスを盛り付ける。
「ご飯出来たよー!」
瑞希とルルがキッチンから取りに来てと声を張る。双子のみならずディックまでもが顔を輝かせてきたことに、吹き出してしまったのは二人だけの秘密だ。




