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マリッサの助言

 「いらっしゃいませー!」


 可愛らしい二つの笑顔と綺麗に重なった声に出迎えられて、薬屋の扉を開けたマリッサはほっこりとして表情を緩めた。こんにちは、と挨拶しつつ双子の小さな頭を撫でてやると、二人はこそばゆそうにしながらももっと撫でてという気持ちを隠しきれず手のひらにそっと擦り付いてくる。それがなおのこといじらしく思えて、マリッサの表情筋はますます緩んでいいった。

 普段ならここでサービスのドリンクなりお茶なりを貰って買い物に移るのだが、しかし今日はそうもいかなかった。


 「カイルとライラ、撫でてもらってるの?」


 棚の陰からひょっこりと顔を覗かせたディックが兄貴分らしい大らかな笑みを浮かべる。全身が現れた時、彼は《フェアリー・ファーマシー》の商品が詰まった大きな箱を両腕で抱えていた。

 《フェアリー・ファーマシー》は買い物すると紙袋に品物を詰めてくれるが、あまりに多いと箱に詰めるのだろうか。

 そんな考えが頭の片隅を過ぎったが、けれど今はそんなことはどうでもいい。マリッサは心配そうに眉間にしわを寄せた。


 「どうしたんだいディック、そんなに買い込んで。親父さんの所で何かあったのかい?」


 人手がいるならウチのを遣るよ、と捲し立てるマリッサに、ディックは何を言われたのかと少しの間固まった。けれどすぐに理解が追いついて、違う違うと首を振りつつからからとした笑顔を見せる。


 「オレ、今ここで雇って貰ってるの。親父たちに何かあったわけじゃないよ」


 心配ありがとね、と照れ臭そうに礼を言う少し幼げな笑みに、マリッサはそれならいいと安堵に胸を撫で下ろした。それから早とちりを誤魔化すように「紛らわしいんだよ」とディックの背に平手打ちを食らわせる。べちん! と良い音がした。

 きゃらきゃらと笑う幼子の声と、「だいじょーぶ?」と笑いを堪えきれない声がディックに向かう。

 それら全てを、ディックは一笑とともに受け入れた。


 「ったく、カイル笑いすぎ。ライラは優しいなぁ、ありがとうね」


 笑ってなければもっと嬉しかったんだけど、と釘を刺すのも忘れずにライラの前髪の辺りをくしゃくしゃ撫でる。もともと愛らしい顔立ちを柔らかくしていっそう可愛らしさを増した中に、仄かな女らしさが垣間見えた。

 おやおや、とマリッサが微笑ましく思ってしまうのも無理からぬことだろう。相手が赤ん坊の頃からよく知るディックということもあって、要らぬ老婆心がむくむくと鎌首を(もた)げ始める。

 そんなマリッサの心中など露知らず、ディックはあっさりと仕事に戻ってしまった。しっかり者に成長したのだという感慨深い気持ちを抱く反面、もう少し二人のやり取りを見ていたかったという物足りない気持ちまで同時に沸き起こり、複雑な思いを隠せない。

 精神面は女の子の方が早熟だとよく言うし、ディックはなかなか鈍いところがある。やはりここはライラに頑張って貰うしかないだろう。


 「いいかいライラ、よくお聞き。何事も先手必勝なんだよ。狙った獲物は逃しても奪われてもいけないからね」

 「ちょっとお婆ちゃん、ライラに変なこと教えないでちょうだい!」


 神妙な顔をしてライラに言い聞かせるマリッサに、聞こえないと知りながらもルルが叫ぶ。カイルはぎょっと驚き、困惑顔でマリッサを見ていた。

 ぱちくりと、ライラの空色の瞳が見え隠れする。


 「うん? えっと、はい……?」

 「ライラも頷いちゃだめぇっ!」


 ルルの悲痛な叫びを、カイルとライラだけが聞いていた。

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