見えること
家に帰ってきた瑞希はグラスを二つとルル用のコップを出して、作り置きのハーブティーを注いだ。いたずらに話を長引かせるつもりはないけれど、短くできるような簡単な話ではない。気休めにも必要だろうと思ってのことだった。
アーサーは不自然に小さなコップに少し目を大きくして見ていたが、それがすぐに宙に浮いたのを見てなるほどと見えない存在を実感した。瑞希から差し出されたグラスを受け取る時にも目は浮いたコップから離さないで、心なしかきらきらと輝かせてもいた。
興味津々な様子のアーサーに笑いを漏らして、気づいて慌てて顔を引き締める。幸いにも気づかれなかったようで、瑞希は安堵の息を吐いた。
アーサーを椅子に促し自分も座って、どう切り出せばいいのかと糸口を探す。かちんこちんと時計の針の音がやけに大きく響いていた。
「えっと、浮いてるから分かると思うんだけど、そこにルル……妖精がいるの」
トントン、とルルがわかりやすくテーブルを叩いた。ひらひらと手を振ってもいるが、それはアーサーには見えていない。
「そうか。初めまして、アーサーと言う。今日からここで暮らすことになった」
よろしく頼む、とルルに向かって頭を下げるアーサーに瑞希はぱちくりと瞬いた。ルルもこうも早く、しかも頭まで下げるとは思っていなくて驚いている。
「信じてくれるの?」
「? 本当のことなのだろう? それとも嘘なのか?」
「嘘じゃない!嘘じゃない、けど……」
「ならいいだろう。根拠はなかったが、なんとなく思っていたからな。まさか妖精とは思わなかったが」
そう語るアーサーは相変わらず淡々としていて、やっぱり何かしらの拍子に気づかれていたんだなぁとしみじみ思った。
「妖精なんて物語の中だけの存在だと思っていたが……実在するんだな」
「私も最初は驚いたよ。でもみんな凄く親切で優しいの」
「そうか」
瑞希にとって妖精たちも大切な家族だ。関門を突破したことで気がかりも消えて、嬉しそうに次々と話していく瑞希の話をアーサーも楽しそうに聞いていた。
ハーブティーを飲み干すと、その度にルルが魔法でお代わりを注ぎ足した。見慣れている瑞希はともかくアーサーは驚いていた。妖精の魔法だよと教えてやれば、それはすごいと感動すら見せて、アーサーのテンションは上がりに上がった。




