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真夏の夜に

 大樹の下の、少し開けた空間。何度も通ったこの広場だが、照らし方が変わるだけで随分と印象が違った。

 木と木を繋ぐように連なって少し大きめの光が広場を囲み、照らす。

 その景色が、瑞希に一瞬故郷(ちきゅう)の夏祭りを思い出させた。

 祭り囃子の代わりに聞こえるのは、さえずるような妖精たちの笑い声。


 (こっちの方が好きかもしれない)


 自分自身でそれを不思議に思いながら、瑞希は我知らず口許を綻ばせていた。さくさくと草を踏み、広場の奥へ進む。

 年嵩の妖精たちに囲まれた白い長髭の妖精を見つけて、瑞希は丁寧に礼をした。ぴこぴこと、小さな手が人形のように振られる。


 「ご無沙汰しています、長老」

 「ほっほっ。まったく久しいの、ミズキ。お前たちも元気そうでなによりじゃ」


 たっぷりとした髭を小さな手で撫でつけながら、長老がほけほけと笑う。

 「頑張っているようじゃの」と我が子を見るような目を向けられて、瑞希はくすぐったい気持ちになった。照れたような笑みが零れる。

 長老はまた「ほっほっ」と独特の笑い声を上げた。眦に笑いじわを刻んだ目が、瑞稀の後ろで待ちわびる子供たちにも向けられる。

 早く話しかけたくてうずうずしていた双子はぱっと顔を輝かせて、嬉しそうに瑞希の後ろから出てきた。


 「おじいちゃん、こんばんは!」


 カイルとライラの声が重なる。

 ルルは二人の声に隠れるような小さな声で「こんばんは」と挨拶していた。

 けれどそれも、さすがに年の功。ルルの行動を予想していた長老の耳はしかとそれを聞き留めた。


 「おお、こんばんは。三人とも、きちんと挨拶が出来て偉いのぅ。良い子たちじゃ」


 褒められて、双子が自慢げに胸を張る。素直じゃないルルはぽっと目許を赤らめてそっぽを向いていた。


 「ライラたち、みんなでお出かけしてきたの。それで、おじいちゃんたちにもお土産持ってきたんだよ」

 「オレたちの釣った魚、燻製にしてもらったんだ! おじいちゃん、食べてくれる?」


 左右から矢継ぎ早に話しかけられるけれど、長老は戸惑うことなく聴きわける。好々爺然として相槌を打ち、途切れなく続く双子の話に耳を傾けた。

 いかにも上機嫌になった長老に、周囲の年嵩の妖精たちも嬉しそうにしながら、辺りに向けて小さな光の玉を飛ばす。それを合図とするように、木に休まっていた他の妖精たちが広場に集まってきた。

 蝶のように動く翅が柔らかく月の光を反射して、幻想的に夜の広場を飾る。何度見ても見惚れてしまう、美しい光景だった。

 わらわら集まってきた妖精たちに、瑞希とアーサーで馬に積んでいた荷を降ろそうとすると、誰かが魔法でそれを代わってくれた。

 妖精たちに向けて礼を言い、包装を解いていく。菓子類は年若い妖精たちに渡し、長老お待ちかねの川魚の燻製は地酒とともに大人たちに瓶ごと渡した。

 広場はたちまち宴会場へと変貌を遂げる。

 運ばれてきた酒と肴を確かめるように頷いて、長老は嬉しそうに相好を崩した。早速と燻製に手を伸ばす。川魚の燻製は、人間には小さくとも妖精には大きい。それでも長老は髭が汚れるのを厭いもせず勢いよく齧り付いた。


 「おおっ、これは美味い! 噛めば噛むほど旨味が出てきて、堪らん逸品じゃ!」


 零れ落ちたかけらで真っ白な髭をところどころ汚しながら、長老が美味い美味いと大げさなほどに繰り返す。

 子供たちは喜んでもらえたことにこそ喜んで、満面の笑みを浮かべた。

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