もう一仕事
長い昼休みが明けて、定期馬車が客を乗せて街と《フェアリー・ファーマシー》とを往復する。午前は瑞希とアーサーの二人で分担していた数々の業務も、子供たちが無事帰宅し参入したことで通常通りの役割分担に戻った。街で瑞希や《フェアリー・ファーマシー》の評判を聞いて、子供たちはいっそう手伝いに励むことにしたらしい。
多感な年頃だからこそ、子供たちは良くも悪くも影響を受けやすい。それがマイナスに働かないのなら、やりたいようにさせてやるのも保護者の役割の一つだろう。
瑞希もアーサーも疲労を心配して家での留守番を勧めようとしたが、二人の目から見ても健康的で熱心な姿に何を言う気も失せてしまい、静かに見守ることを決めた。
とはいえ心配なことには変わりなく、瑞希はいつも以上に子供たちの様子に気を配った。そのためには、店内を見渡せるカウンターを担当することは好都合だった。
視界の中に最低一人は入るように心がけて、いささかの変化も見逃さないような心構えで客の会計を済ませていく。
客たちはといえば、子供たちが午前中に無事お使いを果たしてきたことなど知る由もなく、いつも通りせっせと--けれど笑顔は割り増しで手伝いに精を出すカイルとライラにほっこり心を和ませていた。
その中で馬車を迎え、客の見送りを繰り返す。客の数は日が傾くほど増え、和らいだはずの気温も人々の熱気で補填されてしまう。
ルルは小まめに風を引き入れ、空気の入れ替えとともにミントを使った化粧水の爽やかな香りを店中に広めた。
そして、本日最後の馬車が《フェアリー・ファーマシー》を後にする。無事店を回し切ったことに、瑞希たちはほっと胸を撫で下ろした。
しかし、今日という日はまだ終わらない。これから妖精の集落にお土産を届けに行くのだ。瑞希やルルにとっては帰省のようなものだが、カイルやライラにとってはイベントに近いらしい。日中の疲れなど忘れたかのように元気にはしゃいでいた。
五人で協力して店の後片付けを終わらせ、大急ぎで支度を始める。アーサーとカイルが風呂に入っている間に瑞希とルルとライラの三人で夕飯を作り、三人が風呂に入っている間にアーサーとカイルが荷造りした。
いつもモチを抱えて五人徒歩で集落へ行くのだが、今日は荷物が多いため馬を連れていく。冷蔵庫で一晩寝かせた、双子が釣った川魚の燻製も忘れずに荷に加えた。
そうして準備が整った頃には完全に日が沈みきっていて、月や星々の淡い光が地上を照らす。しかし、森を歩くにはあまりに儚く、頼りない。
ルルは魔法で蛍のような火を作り出し、暗い夜道を薄ぼんやりと照らした。きっと休む動物たちを気遣っているのだろう。明るいというには物足りないが、移動するには十分な明るさだった。
遠くにフクロウの鳴く声を聞きながら、五人と二匹は集落までの道のりを辿る。ジージーと耳鳴りのような鳴き声は、果たして何という虫だっただろうか。
踏み慣らした獣道も越えて、集落に入る。
「こんばんは。みんな、元気にしてた?」
見かけた妖精たちに挨拶すると、彼らも小さい体を全部使って歓迎の意を示してくれた。
「ミズキだ、やっほー! あれ、なんか荷物多いね?」
「アーサーたちも、いらっしゃい!」
初めは数人だった妖精たちは、話し声を聞きつけてか集まりだし、ひらひらと瑞稀たちの周りを飛び交った。言葉通り四方八方からかけられる声のどれもに一つずつ応じながら、瑞稀たちはゆったりとした足取りで広場に向かった。




