ルルの勝利
「そういえば、ミズキたちはどうだったの? 午前中、二人だけじゃ大変だったでしょう」
旅行からも帰ったばかりだし、疲れてるんじゃない?
ルルの言葉に、双子もはっとして心配そうに両親の様子を伺う。瑞希とアーサーはそれをくすぐったいと思いながら、大丈夫だと微笑んだ。
「私、体力は結構自信あるのよ?」
鍛錬を重ねたアーサーは言うまでもないが、瑞希も毎日の健康的な生活のおかげで疲労からの回復は比較的早い。特別に運動する習慣をつけていたわけではないが、地球にいた頃は授業に行事にと奔走していたし、終業後の残業もザラにあったので必然的に体力がついたのだ。この世界に来てからも、種類こそ違うが毎日忙しく動き回っていることには変わりないため、体力が衰えるようなこともない。
瑞希がそう答えた隣でアーサーも深く頷き、言葉を付け足す。
「心配無用だ。瑞希が大活躍してくれたからな」
アーサーの言葉に瑞希はぎょっと目を剥いた。子供たちがきらきらと尊敬の眼差しで見つめてくれるのが、嬉しいけれど面映ゆい。
「ご、誤解しないで、ね? 今のは、アーサーが大げさに言ってるだけだから……」
「そんなことはないぞ。世辞を言えるほど俺は口が上手くない」
「じゃあ、母さんやっぱり凄いんだね!」
「えー?」
ますます双子に目を輝かされて、瑞気は困ったと眉を八の字にする。褒められるのは嬉しいが、心当たりがないのだ。
一方で、ルルはアーサーが瑞稀を凄いという理由の方が気になったらしい。
「どうして凄いと思ったの?」
尋ねるルルに、アーサーは午前自分が目撃したことを話した。
「ミズキはな、後ろも見ないで客に気づいたんだ」
「えぇ? たまたま誰か他の妖精が来てたとか、声をかけられたとかじゃないの?」
「俺も一度はそう思ったが誰の姿もなかったし、声も聞こえなかった」
言い切るアーサーに、それが本当なら確かに凄いとルルも思う。真相はどうなのかと瑞稀を見れば、額に手を当てて項垂れていた。思い当たる節があったらしい。
「アーサー、それは誤解だわ……」
ひどく困惑した響きの声に、アーサーが首を傾げる。俯く瑞希にそれは見えていないだろうが、その姿が目に浮かぶのか、また一つ溜息を吐いた。
「ちょっと思い出したことがあって、カウンターに戻ったの。そしたらちょうどお客さんが会計に来て……」
「本当にそれだけなの? ただの偶然ってこと?」
確認するルルは信じられないと怪訝そうにしているが、瑞希にとっても、まさかそんな勘違いをされているとは夢にも思わなかったことだ。というか、見られているとも思っていなかった。
何とも言い難い微妙な空気がその場に流れる。アーサーは居心地の悪さから逃げるように顔を背けた。
「とりあえず、アーサーがミズキのことを大好きだってことはわかったわね」
「は⁉︎」
「なぁに? ご飯の前、アーサーがミズキのこと話してるのに聞き耳立ててたこと、アタシ知ってるんだからね」
「ルル‼︎」
ひっくり返った声でアーサーが叫ぶ。双子はなるほどと何故か納得顔をしていて、瑞希は戸惑いと妙な居た堪れなさに体を縮こまらせた。その首や耳は、薄っすらと赤く染まっている。
アーサーは何とか弁明を試みようとしたが否定しきれるはずもなく、結局は歯痒さに唇を固く結んだ。
「勘弁してくれ……」
力なく呟いたアーサーに、慰めるようにモチがぽんと前足を置いた。




