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温もり

 「三人とも、お昼ご飯は食べた?」

 「ううん、食べてない。あ、でも、おばあちゃんがクッキーくれたから、それは食べたよ」

 「……もしかして、お金足りなかった?」


 それとも落としてしまったのだろうか。

 あり得る可能性を頭に浮かべつつ瑞希が尋ねると、子供たちは揃って「そうじゃない」と首を横に振った。

 ならどうして? 瑞希が続けて聞く。これに答えたのはライラだった。


 「ママのご飯食べたいね、って」


 だから食べてこなかった、と言われて、瑞希は歓喜に打ち震えた。愛する我が子たちにそんな可愛いことを言われて、嬉しくないはずがない。腕に(より)をかけて料理を作るに決まっている。

 俄然やる気に燃えた瑞希に、傍で見ていたアーサーは瑞希らしいと鷹揚な態度で受け入れた。

 子供たちは慣れないお使いで疲れているだろうからとリビングで休ませて、アーサーに面倒をお願いする。

 瑞希は喜び勇んでキッチンに立った。今日の献立は三人の好物尽くしに決定だ。長くなった昼休みがこんな形で役に立つとは思いも寄らなかった。暑すぎる夏も意外と悪いものではないとさえ思えてくるので、我ながら現金なものだと瑞希は思った。

 上機嫌に好きな歌を口遊みながら、料理する手を進めていく。

 キッチンから溢れ出る小さなそれを聞きながら、アーサーと子供たちも楽しそうに笑った。


 「母さん、ご機嫌みたいだね」

 「ああいうのを、浮かれてるって言うのよ」


 いかにも真面目すかした顔で言うルルに、うっかりアーサーは噴き出した。くつくつと喉を鳴らして肩を震わせるその姿に、双子が不思議そうに顔を見合わせ首を傾げる。

 ルルはニヤリと企んだ笑みを浮かべていた。後でミズキに言ってやろう、という魂胆が丸見えの笑みだった。

 モチはぴったりと双子の間に収まり、体格の差も関係ないとばかりにルルに顔をすり寄せた。離れていた寂しさを訴えるような仕草に双子は擽ったそうにしている。押し倒されそうなルルは「暑苦しいわよ」と口では辛辣なことを言っているが、突き放すようなことはしないのだからやはり根は優しいことがよくわかった。

 そんなふうに四人と一匹で体を休め、あれこれと話すものの、誰も敢えてお使いのことを話題にはしなかった。瑞稀も揃ってから、と誰が言い出したわけでもなく了解していた。

 しばらくすると、キッチンの方から食欲をそそる良い匂いが漂ってくる。今日のご飯は何だろうかと、楽しみでならないという様子で話し合う子供たち。

 それを慈愛に満ちた優しい目で見守りながら、「きっとお前たちの好物だろう」とアーサーは内心だけで呟いた。

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