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帰る場所

 昼休みが近づいてくると、外の気温も上がってくる。そうなると暑さから逃げるように客の数が減りだした。そうなると少しは手が空き出すと思われそうだが、そんなことはない。あまりの暑さに客たちは到着早々スポーツドリンクを買い、落ち着いてからようやく買い物を始めるので仕事量はほとんど変わらないのだ。

 普段はルルに魔法で風を引き入れてもらっているのだが、今日はそれもできない。しかも間の悪いことに自然の風もあまりないため、立っているだけで全身から汗が噴き出ているような感じがした。

 そんな時に馬の嘶きが聞こえて、もうそんな時間かと外を見る。見慣れた馬車が店の前へと近づいて来ていた。これは何便だったかと時計を見れば、昼休みの直前、最後の客を街に連れ帰るための便だと判明した。

 馬車の迎えに気づいた客たちがそれぞれ動き出す。既に支払いを済ませた客たちは出入り口近くの日陰に身を寄せて、まだ会計前の客たちはぞろぞろとカウンターの前に並んだ。

 客数が多くないから瑞希一人でも十分手は回るのだが、この暑さの中で他の客を待たせるのも忍びなく、アーサーは補充を後回しにして瑞希の手伝いに回った。瑞希が会計しているうちに、アーサーが商品を紙袋に詰めていく。

 もともとあまり長くはなかった会計待ちの列がみるみるうちに短くなっていく。最後の客が店を出る頃に、ちょうど客が馬車に乗り込み始めた。これで最後だから、と瑞希とアーサーも出入り口まで客を見送りに出る。

 と、その時。乗り降りの客が揃う人垣の中から、小さな影が飛び出してきた。それらはまっすぐに道を突き進み、体当たりするように目的に飛びついた。

 突然のことに瑞希が驚き、仰け反って体勢を崩す。倒れそうになったところを、アーサーが腕を伸ばして支えた。

 瑞希はアーサーに支えられたまま、抱きついてきたものを見下ろした。すると鳩尾の辺りにぐりぐりと懐いてくる金髪が見えて、驚いていた顔が喜色に染まった。よく見ればアーサーも腹辺りに抱きつかれている。アーサーに抱きつく金髪の肩には、それを微笑ましそうに見守る小さな妖精がいた。

 ふわふわの金髪に指を通して、梳くような手つきで優しく撫でる。カイルは悪戯が成功した時のような笑顔で瑞希を見上げた。


 「ただいま!」


 三つの高い声が揃う。

 満面の笑みを浮かべて帰ってきた子供たちに、アーサーと瑞希は「おかえり」と笑顔で返した。

 またぎゅうっと抱きついてきたカイルを、瑞稀も小さな体に腕を回して抱き締める。えへへ、と幸せそうな声に、瑞希も幸せを感じて金髪に頰を寄せた。胸が、目頭が熱くなる。こんなつもりじゃなかったのに、と泣きそうになるのを何とか堪えて、瑞希は笑った。


 「三人とも、おかえりなさい。お使い、お疲れ様」


 五人で身を寄せ合い、ぎゅうぎゅうと互いを抱きしめ合う。

 そんな家族の姿を馬車の乗客たちはしかと目に焼き付ける。

 馬車はゆっくりと動き出し、街へと帰る道を辿った。

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