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観察

 第二便以降、アーサーは意識して瑞希の動きを気にするようにしていた。瑞希の視野の広さはわかったとはいえ、仕事を早くこなす秘訣はまだわかっていないからだ。ほとんどは好奇心による行動だったが、真似できることがあれば、という探求心もそこにはあった。

 一方、瑞希は当然観察されているとは露知らず、人好きのする笑顔でくるくると動き回っていた。かと思えば、おしゃべり好きな客の他愛ない世間話にもにこやかに相槌を打ったりしていて、普段と違った素振りは見受けられなかった。


 「双子ちゃんがいないと、ちょっと寂しいねえ」


 いるのが当たり前になっていたと溜息を吐く老人客に、有難く思いながらも瑞希はまたかと苦笑した。双子の不在を残念がる客はその人だけではないのだ。子供たちのアイドルっぷりは凄まじい。

 老人客の消沈ぶりに何とも言えない思いをしながら、瑞希は手早く商品を袋に詰めていった。

 第一便からしばらく時間が経ち、次の便で昼休み前の来客は最後になる。街で食事せずに帰ってくるとしたらその便か、時間をあけて来る帰り用の便を使うだろう。

 二言三言とやり取りを交わしてから、老人客がカウンターの前を去る。

 瑞希は動きざまに他の客が来ていないかを目で確認してから、大きめの籠を手にカウンターを出て商品の補充を始めた。

 移り変わりの早い行動に気づいたアーサーが目を留める。

 瑞希はてきぱきと無駄のない動作で棚の空きを埋めていった。その最中、頭の中で考えることは、子供たちが帰ってきた後のことだ。

 褒めるのは当然として、もし昼前に帰ってきたら食事は何にしようか。帰ってこなかった時はおやつを少し豪勢にしてみようか。瑞希は黙々と作業と思考を繰り返していた。

 どこかぼんやりとして見えるのに、瑞稀の手は止まらない。五分もしないうちに棚一つ分の補充作業が終わり、瑞希の目が隣の棚に向いた。

 これか、とアーサーは答えを見つけたような気がした。


 (なるほど、単純に速さの問題だったのか)


 一つ分の誤差は小さくとも、数が増えればその差は増していく。

 得心がいったとアーサーが観察をやめようとしたところで、別の棚に手を伸ばしかけていた瑞希が立ち上がり、小走りでカウンターの中に戻っていった。

 それを不思議に思っていると、間を置かずに、商品を手にした客が会計のために瑞稀のもとに現れる。その時にはすでに瑞希は梱包用の紙袋を手にしていて、アーサーは驚き目を見開いた。


 (振り返らなかったのに、どうして客に気づいた……?)


 もし客が声をかけたのなら、少し距離があるとはいえアーサーの耳にも届いただろう。

 アーサーはまさかと思い、天井を見上げた。しかしそこには当然ルルの姿も、他の妖精の姿もない。

 となると、瑞希は自分自身で客が来るのに気づいたということになる。

 見くびっていたわけではないが、瑞希はアーサーが思っていた以上に(さと)いらしい。

 いっそう深まった謎に頭を悩ませながら、アーサーは瑞希の姿を目で追った。

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