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瑞希の目

 「ミズキはもしかして、普段はやりすぎないようにセーブしているのか?」


 まさかミズキに限って……。そう思いながらも、気づけば言葉が口を突いて出ていた。しまったと悔やんでももう遅い。

 アーサーの指摘に、瑞希は大きな目を瞬かせた。きょとんとした表情が、苦い笑みに変わる。やぁね、と笑いを堪えた声がアーサーの疑念を否定した。


 「そんな余裕、あるわけないじゃない」

 「だが、それにしては仕事が速すぎる」


 畳み掛けるように言い返したアーサーに、瑞希はどうしたものかと頭を悩ませた。

 余裕がない、その言葉に嘘はない。けれど省いた言葉も確かにあった。

 それをどう伝えればいいのか、瑞希は言葉を模索する。


 「本当に、いつも余裕はないのよ。こういうとちょっと語弊があるんだけど、子供って思いもよらない行動に出ることがあるでしょう? だから、普段はルルたちの動きにも注意してるの」


 この世界では教育が重要視されていないと知った時、瑞希は《フェアリー・ファーマシー》を子供たちの教育現場にすることを決めた。多くの人と触れ合い通じ合うことで学べることもあるから、と。

 子供たち自身に主体的に行動させ、学びを見つけさせる『発見教育』--しかしそれは、放任するというわけではないのだ。ある程度の道筋を予測した上で、起こり得る危険をなくさなくてはならない。

 それに、いくら店の手伝いに慣れてきたとはいえカイルたちはもちろん、ルルだってまだ子供だ。《フェアリー・ファーマシー》の客層は街の人たちを含めた常連客がほとんどとはいえ、新しい客も来るのだから、その分予測できなかったトラブルが発生する確率も高い。

 だからいつでもフォローに回れるように、客の動向だけでなく子供たちにも気を配っている、というのが瑞稀の言だった。

 瑞希の考え方はアーサーには到底馴染みのないものだったが、言われてみれば「そうなのか」と納得できるものだった。過言でなく店中に配っているのに、余裕などあるはずがない。

 アーサーは、くだらない勘繰りをしてしまった自身を恥じた。それと同時に、自分には思い至らなかった観点を見出していたミズキに感心する。


 「ミズキはすごいな」

 「でしょう? あの子たちに情けないところなんて見せたくないもの」


 心底からの賞賛に、瑞希は擽ったそうに笑った。

 からんからん、と出入り口のベルが鳴る。来客の報せだ。話し込んでいる間に第二便の客が来たらしい。

 ぱっと顔を上げた瑞希が、「いらっしゃいませ」と耳触りの良い声を投げかけた。


 「お昼休みはまだまだ先だけど、お手伝いよろしくね」


 言い置いて、瑞希がカウンターに入る。

 胸の(つか)えがおりたからかすっきりとした気持ちで、アーサーも動き出した。踏み出した足は、心なしか先ほどよりも軽かった。

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