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子供たちのいない店

 さて、子供たちを見送ってから《フェアリー・ファーマシー》に戻った瑞希とアーサーは、にやにやと揶揄い混じりの視線に晒された。客たちは口に出すことこそ無いものの、目は口ほどに物を言う。

 アーサーは居心地悪そうに眉間にしわを刻んでいたが、瑞希は見事なサービススマイルを貼り付けて、何事もないかのように振舞っていた。

 いつもは子供たちが出迎えがてら手渡していたサービスティーは、今日は客が自分から注ぐセルフサービス式だ。常連は双子が店に出る前、《フェアリー・ファーマシー》が開店したばかりの頃のことを思い出し、まるで昔のことのように懐かしんでいた。

 ミズキとアーサーの二人で回さなければいけない店の役割担当は、アーサーがサービスティーを含めた出入り口側の半分を、ミズキが会計とカウンター側の半分を担当する。ルルも双子たちもいない店の仕事はもっと手間取るかに思われたが、驚くほどいつも通りに事が進んでいた。


 (客が少ないのか? …………いや、そんなことはない。来た時の馬車はいつも通り満席だった)


 もしかして客たちが気を利かせてくれているのだろうか、とアーサーが観察眼を働かせてみるも、そんな素振りを見せる者はいない。誰もが当然のように欲しい商品のもとに行き、ぐるりと店内を一周して、そのまま支払いに行っていた。商品の減り具合も、おそらく日頃と変わりない。監督する範囲が広い分体力を消耗するのは当たり前だが、陳列棚に空白を作ることはなかった。

 あまりにもすんなりと進んでいくことを不思議に思いながらも、商品の前出しに補充にと奔走しているうちに、時刻は早くも第二便を迎える頃になっていた。

 客が店を出て、馬車待ちの列をなしていく。その隙にと補充の手を早めて次の客を迎える体裁を整える。

 自分の担当分を早々に終わらせたアーサーが瑞希を手伝おうと振り返ると、カウンター側の商品も前出しや補充か完了された後だった。他の棚は、とアーサーが足早に見回るが、どこの棚も同じように抜かりなく作業が完了している。一番奥の棚まで行ってようやく瑞希の姿を見つけた時にはちょうど最後の商品を補充している最中だった。


 「あら? アーサー、どうかしたの?」


 棚の前に膝をついたまま見上げてくる瑞希を、アーサーは呆然と立ち尽くした。それに首を傾げて、瑞希が立ち上がりアーサーの傍に寄る。


 「アーサー?」


 もう一度名前を呼んだ瑞希を見下ろして、アーサーは驚きを残しながらもなんとか首を横に振った。


 「手伝おうと思ったんだが、すまない、遅かったな」

 「そうだったの、ありがとう」


 嬉しそうに目を細めて微笑む瑞希に胸を温かくしながらも、アーサーの心境は複雑だった。

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