ご褒美
ライラに手を引かれるようにして、マリッサの店までの道のりを行く。いつもは自分がその役目を果たしているのに、と思いながらも、カイルは口に出すことはしなかった。ライラがお遣いに張り切っているわけではないことは、言われなくともわかっていたから。
そんな二人に気を遣ったルルが道中ずっと魔法で風を当ててくれていたので、小休憩を挟むことなく三人はマリッサの店に行き着いた。
店に入ると、マリッサは意外そうにしていたが、目元を和ませて「いらっしゃい」と出迎えてくれた。土産を手渡すと目尻のしわを一層深くして礼を言われ、しわくちゃの手で優しく頭を撫でられた。
「お遣い完遂ね」
すぐ傍で自分のことのようにルルに喜ばれて、堪らず誇らしげな笑みが零れ出た。
空席に通されて、カイルは念願だったヨーグルト風味の炭酸ジュースを頼み、ライラはルルと相談して甘いフルーツミックスのものを頼んだ。昼食を済ませてきてもいいと出がけに言われたけれど、どうしてかそうする気は起きなかった。
ドリンクが運ばれてくるまでの間、カイルはじっとライラを観察する。逃げるようにディックの所を離れたというのに、今のライラは普段と変わりないように見えた。強がっているのかとも思ったが、そういうわけでもないらしい。むしろ、どこかすっきりしたようにも見えた。
カイルはこういった系統の話に自分が弱いことは自覚していたが、気にならないと言えばそれは嘘になる。いっそ直接今の心境を聞いてしまいたい気持ちに駆られながら、カイルは一人悶々と頭を悩ませた。
ふふ、とルルが吐息だけを零して笑った。
周囲の音に容易く掻き消されてしまうほど小さなそれを、ライラだけが聞き取って不思議そうに首を傾げる。
なんでもないと口では言いながら、少しの間ルルは笑いを止められなかった。
カイルの苦悩は炭酸ジュースが運ばれてきた前後に一時打ち止めとなった。よくわからないけどライラが笑ってるならいいか、というのが彼の出した結論のようだ。
うきうきとストローで啜ったヨーグルト風味のそれは、以前ディックが予想していた通り、カイル好みの味だったらしい。思わずと無邪気な笑顔を零していた。
ルルとライラも、手元の赤いそれに口付ける。強い甘味とほのかな酸味が口いっぱいに広がった。
きらきらと目を輝かせる子供たちの前に、ことりと小皿が置かれた。こんがりと焼かれた一口サイズのクッキーが六枚盛られている。驚いて見上げれば、マリッサが悪戯っぽい笑みを浮かべていた。
「お土産のお礼と、お遣いのご褒美さ。そろそろ小腹の空いてくる頃だろう?」
「……いいの?」
「もちろん。こんなに小さい子たちが頑張ってくれたんだ、ご褒美くらいあげたって罰は当たらないよ」
いつかに聞いたような言葉に、カイルとライラは面映い気持ちになる。
「ありがとう!」
満面の笑みを浮かべて言うと、マリッサは満足そうに頷き、「どういたしまして」と返した。




