それぞれの心
「本当に大丈夫? 遠くないって言っても暑いし、もう少し休んでいったら?」
「大丈夫だよ。帽子もあるし、疲れたら日陰でちゃんと休むもん」
心配そうに八の字を寄せるディックに、きっぱりとライラが言い張る。
もう行こう、と言い出したのもライラだった。少しだけ強張っていたその声に、ルルとカイルもライラの心情を慮って、待ったをかけることはしなかった。
何も気づいていないディックだけが、急ぐライラに驚いていた。
しかしいくら言い募っても、ライラは頑として首を縦に振らなかった。だからディックも残念そうに肩を落とし、「気をつけるんだよ」と再三念を押して、二人を見送ることにした。
小さい影が二つ、狭い歩幅ながらにぐんぐんと道を進んでいく。それをディックは感慨深い面持ちで見つめていた。
(あの引っ込み思案なライラがなぁ……子供の成長は早いっていうけど、本当なんだな)
しっかり者なところは瑞希に似たのだろうか。髪も、肌も、目の色も、外見はちっとも似ていないのに、内面は本当によく似ている。
きっとこれからもっと両親に似ていくのだろうと思って、ディックは何とも言えない気持ちになった。
ディックにとって、瑞希は好きな女性だ。けれど、夫婦ではないらしいが彼女と関係を持つアーサーのことも、嫌いではなかった。
いけ好かない奴--それが、ディックにとってのアーサーだった。恐らくは向こうも自身をそう思っていたことだろう。
けれどそれは今では互いに変わっている。
「やっぱり、このままじゃダメなんだよなぁ……」
きっついなぁ、とぼやいて、ディックはその場に座り込んだ。
目だけを動かして正面を確認すれば、可愛がっている双子の姿はすでに豆粒のように小さくなっている。
この距離なら振り返られても視認はできないだろうと高を括って、ディックは乱暴に頭を掻きむしった。くしゃりと握り潰し、熱気に揺らぐ石畳を睨みつける。
茹だるようなこの暑さも、あと一月もしないうちに和らぎ始めるだろう。
夏が終われば、秋が来る。
もう、猶予はあまり無いと考えるべきだろう。そうでなくとも、いつまでもこのままではいられないと、ディック自身が思っていた。その胸中では、大きく蟠る不安と、それに負けないほどに強い決意が渦巻き、鬩ぎ合っている。
「そろそろ、一回話し合って見るかなぁ……」
呟いて、ディックはまた重い溜息を吐いた。




