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医師ロバート

 大真面目な顔をして恨めしげにドアノッカーを睨みつける双子に、ルルは地面に落ちかけた。


 「別に届くところを叩けば良いだけじゃない」


 そう言ってみたけれど、双子は焼いた餅のようにまろい頰を膨らませて不貞腐れる。それがあんまりにも可愛くて、ルルは顔が脂下がるのを止められなかった。


 (仕方ないことだけど、ミズキもアーサーも本当に勿体無いわ! こんなに可愛いこの子たちを見れないなんて‼︎)


 ルルは強い使命感に燃えた。これは絶対に帰ったら二人に語り聞かせなければ、と。

 その使命を一刻も早く果たすために、ルルがかんかんとドアノッカーを打ち付ける。

 すると中から気怠げな応答の声がして、草臥れたロバートがのっそりと緩慢な動きで姿を現した。

 カイルとライラが眩しい笑顔を浮かべる。


 「おはよーございます!」

 「お、おはよう……? って、カイルにライラじゃないか。今日は検診の日じゃないはずだが……いや、それよりもミズキやアーサーはどうしたんだ?」


 姿の見えない大人たちを探して左右に顔を向けるロバートに、いないよと双子が胸を張って答える。

 目を丸くして見下ろしてきたロバートに、ライラは「はい!」と土産袋を両手に掲げ、カイルは得意になって地図を見せつけた。


 「オレたち、お使いなんだよ!」

 「昨日ママたちとお出かけしてね、お土産なの!」


 双子のはしゃいだ声と笑顔に、ロバートは目を瞠り、やや遅れて言われたことを理解した。それから厳つく見えがちな顔を柔和に綻ばせて、そうかそうかとその場に膝をついて目線を低くする。指まで丸く太った手がわしゃわしゃと小さな頭を撫でた。


 「二人とも、お土産を届けてくれてありがとうな。どうだ、お出かけは楽しかったか?」

 「うん! あのね、お友達ができたの」

 「母さんみたいに、手紙出す約束したんだ!」

 「ほお、それは凄いなぁ」


 捲し立てるような勢いであれこれと交互に話す双子にも、ロバートは大げさなくらいの反応を見せて耳を傾けた。

 双子の話は要領を得ないことも少なくない。思い出したことをすぐに口に出すものだから話が四方八方に広がってしまうのに、ロバートは嫌な顔一つせずに双子の話したいように話させていた。

 どれほどかそうしていると、不意に急ぐ足音が路地に響いた。


 「先生、すんません来てもらえますか⁉︎ 爺さんが……‼︎」


 途端、ロバートの顔つきが変わった。柔らかかった目が鋭い光を帯びる。


 「すまんな、二人とも。急患だ」


 真剣な表情で断りを入れる間に、往診中の札を玄関にぶら下げた。仕事道具を手に、ロバートは挨拶もそこそこに患者の許へと駆けていく。

 ふくよかな体つきからは予想し難い俊敏な動きで走り去るロバートに、子供たちは立ち尽しながら感嘆ともつかない息を吐いた。


 「先生、大変なんだね。いつも優しいのに、……ちょっと怖い顔してた」


 ライラたちが知るロバートは、定期健診の時や時たま街で出会したロバートだ。そういう時の彼はいつも怖くないようにと膝をついて視線を合わせてくれて、元気そうで何よりだと頭を撫でて笑ってくれる人。

 だから、いつもと違うロバートに驚いた。

 戸惑いに細めの眉をきゅうっと下げるライラの隣で、でも、とカイルが言葉を継いだ。


 「でも、格好良かった」


 ぽつり、と。大きくはないその呟きは、不思議なほどよく響いた。ロバートが去っていった小路を、青い目がまっすぐに見つめている。


 「…………うん。そうだね」


 別れる間際のその姿を、もう一度脳裏に思い描く。怖いと思ってしまうほど真剣な姿は、格好良かったのだ。

 反芻する弟妹に、ルルは特別優しい笑みを向けた。

 今の二人は、妖精たちが愛する人間そのものだ。種族ではない、その心にこそ妖精は惹かれるのだ。

 幸せな気持ちを噛み締めて、ルルは宙を舞った。


 「さあ、次に行きましょ。今度会った時に、頑張ったってロバートに自慢してやらなくちゃ!」

 「うん!」


 頷いて、また地図を開く。目印を確認して、三人はその場を後にした。

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