一箇所目
馬車に揺られて行く街までの道のりを、三人は物珍しい物を見るような心地で過ごしていた。
今までにも数え切れないほど街に出かけてきたが、子供だけでというのは今回が初めて。いつも頼りにしている大人がいないということに不安を覚えないでも無いけれど、それ以上に心が躍る。
身を乗り出すように座席に膝立ちする双子を、運転手は闊達な態度で受け入れていた。
「おじさん、おじさん。街まであとどのくらい?」
「そうだなぁ、もう五分十分かかるかなぁ」
「あのね、オレたちお使いなんだよ」
「へえ、そりゃすごいな。もう任せてもらえるようになったのか」
後ろは振り向かないながらも、運転手は律儀に言葉を返す。
それと同時に自身や我が子の幼少期を思い出して、ひどく懐かしい気持ちになった。家からたった十分程度の店に買い物に行くだけだったが、あの頃の自分たちも、双子と同じくはしゃいでいた。
「そういや、行き方はちゃんとわかってんのか?」
「うん、母さんが地図書いてくれたよ」
これ! とカイルが言うから、きっと地図を自慢げに掲げているのだろう。見れねぇよ、と笑う運転手に、カイルは不満げな、けれど楽しんだ声を上げた。
まもなく馬車が街に入り、響く音が変わる。暑いとはいえまだ朝の早い時間帯のためあちこちで朝市の売り声が飛び交う中を突き進み、街の停留所に進んだ。
すっくとカイルが急く気のまま立ち上がる。ルルは「こらっ!」とカイルの眼前まで飛んで分かりやすく顰めっ面をした。
「ちゃんと停まってからじゃないと危ないでしょ」
怪我したらどうするの、と叱られて、しょんぼりとカイルが項垂れる。しゅんとしてしまった片割れに、ライラが揃いの金髪を撫でた。
「ほら、もう馬車停まったよ。降りよう?」
誘うように手を差し出せば、顔を上げたカイルが嬉しそうにライラの手を握る。
現金な弟に、仕方ない子ね、とルルが姉らしく笑った。
帽子を深めに被り直して、石畳の上に降りる。頑張れよ、と言ってくれた運転手に元気よく腕を振って、三人は改めて地図を囲んだ。
「まずは誰の所から行く?」とライラ。
「おばあちゃんのお店は最後がいいんじゃない?」とカイル。
それらを受けて、「じゃあ一番近いロバートの所は?」とルルが提案すれば、二人から否やが出ることもなく、第一の目的地が決まった。
お使いとはいえ、ルルの役割は双子のアシストだ。直接そうと頼まれたわけではないけれど、わざわざ地図まで用意していたから、そうだろうと察していた。大人たちの波に飲まれないように道の端の、できるだけ日陰のある所へ誘導しながら、目印を探していく。
三、四回曲がり角を曲がったところで見えてきた診療所に、おおっ! と双子が目を輝かせた。
思わず走り出しそうになるのを人が多いからとぐっと堪えて、ぶつからないように見極めつつ確かに距離を縮めていく。
そうして双子は辿り着いた診療所のドアノッカーを見上げた。
「…………………………届かない」




