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見送り

 瓜の水筒を斜めにかけて、つばの広い帽子をしっかりとかぶる。手には瑞希手製の地図をしっかり握り、身支度を整えた子供たちは、店の前で両親からの見送りを受けていた。まもなく客を乗せてくる第一便が街に帰る時に乗せてもらうのだ。


 「じゃあ、家を出る前に確認するね。お届け先は?」

 「ロバート先生と、お兄ちゃんと、マリッサおばあちゃん!」

 「お家がわからなくなったり、困った時は?」

 「大人の人に聞く!」


 やる気に満ちた弟妹の回答に、ルルはこっそり苦笑う。

 瑞希は「頼もしいわね」と言いながら首提げ紐を通した小袋を渡した。中には千デイル銀貨が三枚入っている。


 「せっかくだから、帰る前にマリッサさんの所で好きな物を飲んでおいで。なんならご飯も食べてきていいから。今日も暑いから、無理や我慢はしないこと」


 約束よ、と言い聞かせて、双子の頰を優しく撫でる。ルルにも「二人をお願いね」と重ねて頼み、瑞希は膝立ちの姿勢から立ち上がった。


 「馬車が来たぞ」


 アーサーの声に視線を動かせば、瑞希にも遠目にその影を見つけられた。

 瑞希は内心に沸き起こる不安はちらとも見せず、あたかも平静のような笑みを湛える。

 大人の感情は、良くも悪くも子供に伝播する。出発が近づいてくる今だからこそ、気負った姿を見せるわけにはいかないのだ。

 とうとう、馬車が店の前に停まった。

 運転手や乗客たちは家族揃って停留所にいる瑞希たちに不思議そうにしていたが、そわそわと落ち着かない双子の様子と手荷物を認めて、何も言わずいつも通りに振る舞った。

 乗客が全員降りた後に、子供たちが馬車に乗り込む。二人がちゃんと座席に座ったことを確認して、運転手が手綱を引いた。

ゆっくりと馬車が動き出す。


 「行ってきまーす!」

 「行ってらっしゃい」


 ぶんぶんと小さな手を振る子供たちを見送って、その姿が見えなくなってからようやく、瑞希は詰めていた息を吐き出した。

 早くも気疲れを感じている心配性な彼女に、大丈夫だと伝えるようにアーサーが肩を抱く。


 「あの子たちは賢い。何事もないどころか大興奮で帰ってくる」

 「わかってるわ。でも、心配しちゃうのよ」


 はあ、と物憂げな溜息が溢れ出る。間を置かずまた吐きかけたそれに、瑞希はぴしゃりと自分の両頰を打って気を引き締めた。

 お使いに行かせようと決めたのは自分なのだ。こんな腑抜けていては子供たちに顔向け出来ないではないか。


 「よし、やるわよ。アーサー、お手伝いよろしくね」


 眦を決した瑞希に、それでこそとアーサーが承諾を返す。

 勢いをそのままにくるりと踵を返した瑞希は、けれど一歩を踏み出すことなく音を立てて固まった。ついで、他人事でもあるまいにアーサーが気の毒そうに瑞希から目を逸らした。

 店の窓辺では、客たちがずらりと横並びして微笑ましいと言いたげな生暖かい目を向けていた。

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