お願い
「今日は、三人にとっても大事なお願いをします!」
グラリオート旅行から一夜が明けた、清々しい朝の日差しが入り込んだリビングで、瑞希が満面の笑みを浮かべて言った。
何の脈絡もないその宣言に、朝食を食べていた子供たちの動きがぴたりと止まる。カイルはトーストに齧り付こうと大きく口を開けたまま、母の笑顔に不思議そうに首を傾げた。
食べてしまえ、と苦笑気味のアーサーに促され、さっくり一口。もぐもぐと咀嚼を繰り返しながらも瑞希に意識を向けることは忘れない。
「お願いはいいけど、何するの?」
ルルが問いかける。
瑞希は朗らかな笑みで答えた。
「三人で、お使いに行ってもらいます」
「おつかい?」
子供たちの声が綺麗に揃う。なにそれ、と言うような舌足らずな言い方に、瑞希がふわふわと微笑した。
「あれよ、あれ」
瑞希が指差す先に三対の目が向く。指し示された先には、昨日小分けにした土産袋が積まれている。
「お店で渡すと他のお客さんもいるから角が立っちゃうでしょう? だから、三人に届けてきてもらおうと思って」
「なるほどね。アタシは良いわよ。ライラとカイルは?」
「ライラもやるー」
「んくっ。ん、オレも」
口の中に入っていた物を飲み込んで、カイルも承諾を返した。
「じゃあ決まりね」
嬉しそうに破顔した瑞希に、頑張るねとライラも笑顔を見せる。どんなことやるのかな、とわくわくしている片割れ同様に、カイルも好奇心が疼くのを感じていた。
「お昼休みに行けばいいの?」
「ううん、朝ご飯の後よ。お昼だと暑くて危ないし、お休みはちゃんと休まなきゃ」
「えっ? じゃあお店は?」
今日はお休み? と丸い目をするカイルに、瑞希はにこにこしながら「今日はアーサーと二人で頑張ります」と言い切った。大丈夫なのかと心配するルルの視線を受けても、その笑顔は崩れない。
カイルとライラは困ったように互いの顔を見合わせた。お店とお使い、どちらが重要なのかと優先順位を決め倦ねている二人に気づいて、瑞希が「うーん……」と少しだけ大きく唸り声を上げた。
「そうよねぇ、お使いって大変だものねぇ。三人になら、って思ったんだけど……難しいものねぇ」
困ったなぁ、と零された溜息に、ぴくりとカイルが反応した。ちろり、と青い目が片割れに向く。視線の先では、ライラもお揃いの青い目でカイルを見ていた。
「母さん、お使いってそんなに大変なの?」
「ええ、とっても大変よ」
「ライラたちがお使いできたら、ママ、嬉しい?」
「とっても!」
決まりだ。双子は意を決して頷いた。
「母さん、オレたちやれるよ。お使い、行ってくる」
「本当に? 行ってくれる?」
「うん!」
元気よく返事すると、瑞希は喜色満面の笑みを浮かべて「ありがとう!」と礼を言った。




