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思いつき

 大人組で運び出し、途中からは双子の手も加わって(うずたか)く積み上げた土産物の山には、誰からともなくから笑いが溢れた。こんもりと小山を成したそれに、調子に乗りすぎたと瑞希が反省する。足の早い物は買ってないとはいえ、いかんせん量が多すぎた。


 「片付けも手伝っていこうか?」


 気を効かせたスティーブンが親切に申し出てくれたが、それはさすがに遠慮した。ずっと動き回っていたのは彼も同じなのだ。

 気遣いだけ有り難く受け取って今日一日の礼を伝えれば、スティーブンは帽子を持ち上げて「毎度あり」とにっかり笑った。

 貨客が無くなり軽くなった馬車が、ガラガラと車輪の音を響かせて街へ向かっていく。

 それを背後に聞きながら、瑞希たちは今朝ぶりの我が家に足を踏み入れた。


 「わ、真っ暗」

 「ちょっと待ってね」


 日も沈みきり真っ暗な玄関先で、ルルがぽうっと小さな光の球を生み出す。小さな指先が指揮するように動くと、暖かな色味のそれは照明の中に入り、瑞希たちの視界を照らした。それからも幾つか光の球を作り出して、やがて家中の照明が灯る。

 しかし、ルルの魔法はまだ終わらない。

 ルルが今度は大きく腕を振り上げたかと思うと、外に積んでいた土産物の山がそのままの状態を維持したまま浮き上がった。そしてゆっくりとした速度で玄関を通り過ぎ、リビングに向かっていく。


 「さすがルル。ありがとう、すごく助かるわ」


 瑞希に褒められて、ルルがえっへんと胸を逸らす。弟妹からもキラキラした目を向けられて鼻高々な様子だった。

 手洗いうがいをしっかり済ませて、五人は一度通り過ぎたリビングに入る。腰を下ろすのはソファーではなく土産物のすぐ傍だ。これから、買い込んだ物の仕分けをしなければならない。

 燻製など臭いのするものは包装紙に包んだまま収納庫に入れ、地酒はアーサーの部屋へ。菓子類は焼き菓子ばかりなのでそのまま戸棚行きだ。


 「おじいちゃんたちにはいつ持って行くの?」

 「明日の夜よ。燻製は出来立てよりも一晩置いた方が美味しいんですって」


 瑞希が答えると、そっかと双子がそっくりな顔ではにかむ。

 喜んでくれるかなあ、と二人は言うけれど、ルルを含め孫を溺愛している長老が喜ばない筈がない。アーサーと瑞希は口を揃えて「絶対喜んでくれる」と断言した。

 それから、ロバートやディックを始めとした特に懇意にしている人たちに贈る分を紙袋に詰めていく。

 その最中、瑞希はふと手の動きを止めた。


 「アーサー、アーサー」


 子供たちに悟られないようにと声量を最小限にまで落とした瑞希に、アーサーが無言で耳を貸す。三人はそれに気づいていなかったが、念には念を入れて口元を手で隠し瑞希はこしょこしょと耳打ちした。

 アーサーの黒い瞳が、興味深いと言うように徐々に丸みを帯びていく。


 「……どう思う?」


  まだ早いかしら、と迷いを見せる瑞希に、アーサーは緩く頭を振って彼女の思いつきを肯定した。


 「しかし、ミズキこそ大丈夫なのか?」

 「……多分? うん、まぁ、きっとなんとかするわ」


 腕の見せ所だと意気込んで拳を握る瑞希に、どうなることやらと一抹の不安を抱く。けれど瑞希はそうとは知らず、「モチのお風呂もよろしくね」と暢気そのもので、アーサーはますます筆舌に尽くしがたい感情に悩まされるのだった。

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