似た者同士
カイルとライラはまだ遊び足りないようだったので表の広場で他の子供たちと遊ばせて、瑞希たちは小さい方の建物に招き入れられた。
その中はぎっちりと隙間なく詰め込まれた資料棚が壁を埋め、向かい合わせになるように組まれた机が太い列を作っている。
明らかに職員専用とわかる様式や物の配置は地球で見慣れた職員室そのもので、瑞希は懐かしさを覚え顔を綻ばせた。
しかし、一方で珍しいとも思った。日本では当たり前のように存在する職員室だが、海外では教師には研究室が与えられ、そこに生徒が自ら訪ねていく形式がほとんどだと聞いたことがあるからだ。
もしかしてこちらでも職員室はありふれた物なのだろうかと瑞希が思案していると、その心を読んだように院長から説明が入る。
「珍しいでしょうね。でも、子供たちには伏せておきたい話もしますから」
「ああ、なるほど」
それを裏付けるように、職員室の奥には衝立で申し訳程度に空間を区切られた応接室があった。そこに通されて、備え付けのソファにアーサーと二人で腰を下ろす。
区切られているとはいえ遮られてはいないそこにも、子供たちの楽しげな声は聞こえてきた。きっとどの子も同じくらいの声量なのだろうが、それでもよく耳が捉えるのはやはりカイルやライラの声だった。
「すごいはしゃぎ様だな」
「帰りの馬車は静かになりそうね」
くすくすとアーサーと瑞希が囁き合う。それを院長が微笑ましく思いながら茶を運んできた。グラスにたっぷりと注がれたアイスティーに添えるように不揃いな形状の焼き菓子が供されて、わかりやすい製作者にほっこりとする。
「お客様だなんて本当に久しぶりで……強引に誘ってしまって、ごめんなさいね」
「いえいえ、あの子たちもまだ遊びたがっていましたから。お茶まで頂いて、私たちこそ申し訳ないくらいです」
言葉通りの顔をする瑞希に、院長は朗らかな声音でいいえと首を振った。年相応のその顔には強い喜びの色が浮かんでいる。
「ジャックたちが聖養院に誰かを連れてきたのは初めてなんです。職員の手伝いを進んでしてくれたり、下の子の面倒を見たりと良い子たちなのですが、妙に大人びているというか、外部の人への警戒心が強くて。だからつい、年甲斐もなく浮かれてしまいました」
照れたような困ったような顔で頬に手を当て微笑する院長に、得心した二人は鷹揚に首肯して同意を示した。
終始和やかな雰囲気のまま、瑞希と院長が会話を弾ませた。話題は当然子供たちのことだ。時折ルルが口を挟んで、それを瑞希が伝聞形で院長に言うと、彼女はいっそう嬉しそうに相好を崩してますます話に花が咲く。
瑞希と院長は、もともとの気性が似通っているのか、互いに気を許すのに時間はかからなかった。あれよあれよと言う間に連絡先の交換まで済ませた二人を、アーサーは会話に口を挟むことはしなかったが温かい目を向け見守っていた。
話がひと段落ついた頃、不意にトントンと衝立がノックされる。
「はぁい?」
「失礼します。燻し終わったので、ご報告に」
「あら、もうそんなに時間が? 楽しい時間ほどあっという間に過ぎていくのねぇ」
ひどく残念そうに言う院長に、瑞希とルルが心底同意して深々と頷く。まだまだ話は尽きないと言わんばかりの様子に、アーサーだけでなく職員も、呆れとも感嘆ともつかないような顔をした。
しかしどれほど名残惜しんでも、できたのならばと瑞希が腰を上げる。それに続くようにアーサーと院長も立ち上がり、職員に案内されて燻製を取りに足を向けた。




