ご挨拶
「あの、私はここの院長を務めるフランシアと申します。本日は、どういったご用件でしょうか……?」
子供たちと瑞希たちとを見比べる院長は、何か問題でも起きたのかと気が気でない様子だった。子供たちが言っていた通り、面倒事が多いのだろう。
それを落ち着かせるように、瑞希がゆっくりとした口調で改めて挨拶する。
「こんにちは。私はミズキと申します。この子たちと川釣りをしたのですが、思いの外たくさん釣れまして。大分重いので、一緒に運んできたんです」
「あ、……そ、そうでしたか。わざわざありがとうございます」
暢気とさえ思えるような声音に、院長の動揺と警戒が薄らぐのが見て取れた。ホッと目元を和ませて、院長が年若い男性職員に目配せする。彼はおどおどとアーサーから魚籠を受け取り、中を覗くと軽く瞠目した。
「凄いね、大漁だ」
褒めるように笑う職員に、ジャックたちがくしゃりと得意げに笑う。カイルやライラには年長者らしく振舞っていたのに、職員の前では弟のように見えた。
「あのね、この中にカイルとライラが釣った魚もいるんだ。一緒に燻製にしてくれない?」
「うん、いいよ。あ、でも……あの、お時間ってありますか? 燻すのにちょっと時間がかかるんですけど……」
「時間は問題ないが……いいのか?」
「もちろん。ここまで運んで頂いたお礼、って言ったら変ですけど」
へらりと人懐っこい笑みを浮かべた職員に、それならとアーサーが比較的柔らかな表情で頼む。
職員はまたへらっと笑って、「少々お待ちくださいね」と言いながら、魚籠を抱えて何処かへ駆けていった。
院長があらあらと呆れ交じりに、けれど仕方のない子ねとでも言うような柔らかな声音で微笑する。
「そういうことみたいですから、どうぞ中へお入りください。今日は特に暑いですから、お茶でも飲みながら少々お話をお聞かせ願えませんか?」
ね? と、柔らかく誘う院長に、瑞希は是非とにっこり笑顔で頷いた。




