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自然の教え

 場所を変えて再開した川釣りでは、魚の大きさこそ控えめだったが当たり数は大幅に上がった。投げては引いてとほとんど入れ食い状態で、前の場所ではなかなか魚に当たることが無かったカイルは見事に巻き返し、一番多くを釣り上げる結果になった。

 川に浸した魚籠(びく)の中ではうごうごと釣り上げた魚が犇めき合っていて、見ているだけで窮屈そうだった。

 それに、あちゃあ、とジャックが自責するような声を上げる。否、ような、ではない。ジャックは額に手を当てて、釣り過ぎたと呟いた。


 「おし。ここから、小さすぎるのは逃がすぞ」

 「えっ? せっかく釣ったのに?」


 もったいない、と声を上げるカイルに、今食べることの方がもったいないんだとジャックはわけ知り顔で言った。


 「小さいやつらはまだ子供なんだよ。だから逃すんだ。そんで、また来年を待つ」

 「あら。森の教えと同じなのね」


 ルルが嬉しそうに零した。瑞希も、かつて教えられた言葉に懐かしさを覚える。

 それなぁに、とライラが目線だけで問いかけた。カイルも同じように、瑞希とルルを見つめている。

 瑞希は記憶を手繰りつつ、かつて自身も言い聞かせられた言葉を嚙み砕き、口遊んだ。

 

 「全部取り尽くしたら、何も無くなっちゃうでしょう? だから、草でも木の実でも必ず幾つかを残すの。それがまた子供を残してくれるから、この先もずっと続けていける」


 全てを根こそぎ採ることは、獣以下のすることだ。今在るものを、だからといって今の一瞬で終わらせてはいけない。自然に生きる者たちはそれを等しく知っている。

 それを理解しない者に、自然の恩恵を受ける資格は無いのだ。

 柔らかな口調で、しかし真摯な目をして語る瑞希に、カイルとライラは顔を見合わせた。

 凪いだ湖畔のような真っ新な水色の瞳が一瞬隠れる。再度現れると同時に、ぱしゃんと水音がした。


 「えいっ!」


 可愛らしい掛け声と共に、掴み取りされた小さな魚が宙を泳ぐ。二、三回体をくねらせて、それはぽちゃりと川の中へ還っていった。

 ぽちゃん、ぱちゃん、と魚が川へ還る水音が連続する。

 やがて音が鳴り止む頃には、魚籠いっぱいに犇いていた魚たちは、三分のニ程にその数を減らした。


 「へへっ、これでいいんだよね?」

 「ええ!」


 照れ臭そうで誇らしそうな、そんな顔をして振り返った双子を、瑞希は満面の笑みて抱きしめた。わぷっ、と声がしたが、今は気にしていられない。感極まったルルも飛び込んで、全身を使って弟妹をぎゅうぎゅうと抱き締めた。


 「カイルもライラも、本当に良い子ね。わかってくれて、ありがとう」


 瑞希の声が微かに震える。それが悪感情ではないとわかるから、ライラもカイルも嬉しそうな笑い声を上げた。

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