新しい家族
「ミズキ、どうしてそんなことを……お前は自分がどう言う選択をしたのかわかっているのか?」
ロバートが席を外した途端、信じられないと瑞希に詰め寄ったアーサーに、わかってると瑞希は強く言い切った。
自分が何を選択したのかも、その選択が大変なものだということも、ちゃんとわかっている。それでも瑞希は二人を引き取ることを選んで、その選択を後悔することだってない。しないと、もう決めていた。
「私だって身寄りが無いわ。……私だって、この子たちのように死にかけていたかもしれない」
あの時ルルに出会っていなかったら。
妖精たちが助けてくれなかったら。
街の人たちが受け入れてくれなかったら。
今はもしもでしかないことは、しかしどれも実際にありえたことばかりなのだ。
瑞希が今こうして生計を立てて生きているのは、ひとえに運が良かっただけ。瑞希はそれをよく理解していた。
「私はたくさんの人に助けてもらった。そんな私が今度は誰かを助けたいって思うのは、おかしいこと?」
「違う、そうじゃない。そういうことじゃなくて……」
どう伝えればいいのかわからないアーサーは苛立たしげに額に手を当てた。口下手な自分にこうも腹の立つ日が来ようとは思いもしなかった。
「子供を引き取ったら、お前は親になるんだ。そうしたら、お前は」
「結婚が遠のくって? そんなの今さらよ。それにロバートにも言ったけど、この子達を悪し様に扱うような人と結婚する気なんて無いわ」
三十年。決して長くはない人生だが、瑞希は自分の結婚はもう諦めていた。こちらでならと思わないでもないが、辛くはない。ルルがいてくれるし、これからは子供達だっている。それでいいと瑞希は思ったのだ。
頑固として譲らない瑞希にアーサーはどうしてこうなったのかとキリのないことを考え続けていた。こんなつもりじゃなかったのだ。しかし何を言っても瑞希は考えを変える気はないらしい。アーサーは深く息を吐き出して、ならと口を開いた。
「なら、俺も子供たちの面倒を見る。もともと俺が拾ったんだ、そのくらいはさせてくれ」
「それは、構わないし助かるけど……アーサーはこの街の人じゃないでしょう? いつかは自分の街に帰るんじゃ……」
「それでも、せめてそれまでは手伝わせてくれ」
もう決めたらしいアーサーに、そこまで言うならと瑞希は頷いた。教鞭をとっていたとはいえ、兄弟のいない瑞希は子育てをしたことがない。人手がほしい瑞希に拒む理由はなかった。
「じゃあ、改めてよろしくね、アーサー」
「ああ、こちらこそよろしく頼む。荷物は全部纏めてあるから、今日からでも移り住めるぞ」
「えっ!? 一緒に住むの!?」
「? ああ。さっきからそう言ってるじゃないか」
「そんなこと言ってなかったわよ!」
口を挟んだルルに瑞希はその通りだと頷いた。しかしアーサーはそのつもりで話していたようで、訂正は受け付けないと凄んでまできた。
空き部屋はたくさんあるから問題はないが、一気に家族が増えたことに驚きを隠せない。
思いがけず大所帯になったと瑞希とルルは顔を見合わせた。




