仰天
「ライラっ‼︎」
カイルとルルの声が揃った。ルルが川を突っ切って対岸に渡り、カイルも自分の釣り竿を放り捨てて駆け出した。他の子たちも川辺に倒れこんだライラとアンネに驚き、慌てて駆け寄ろうとする。
思い切り尻餅をついた二人は痛そうに自分の腰をさすって、それからハッとしたように釣り竿を探した。そして、二対の目が大きく瞠られる。
「大丈夫っ⁉︎」
「ライラ、アンネも怪我は⁉︎」
血相を変えて安否を確認しようとする家族たちに、ライラは満面の笑みを浮かべて飛び跳ねた。
「やったーっ! アンネちゃん、ありがとう! ありがとう!」
「ううん、ライラちゃんが頑張ったからだよ。おめでとう!」
手を取り合ってぴょんぴょん飛び跳ねる二人に、カイルは肩透かしを食らった気分になる。とりあえず、大きな怪我はしていないらしいと胸を撫で下ろしたところで、遅れてカイルに気づいたライラが勢いよく飛びついてきた。倒れ込みそうになるのを意地と根性で何とか堪える。
「カイル、やったよ! ライラにも釣れたの!」
「へっ⁉︎ あ、ああっ‼︎」
ライラが指差す先には、川原に放り出された釣り竿。そのすぐ傍では、今日一番の大物だろう大きさの魚がびちびちと元気よく跳ねていた。
「ライラとアンネすげー!」
「おっきーい! 二人ともすごいねぇっ」
尊敬の眼差しを向けられて、ライラとアンネは顔を見合わせ笑った。
「仲良しもいいけど、二人とも手を出してね」
子供たちより遅れてやってきた瑞希とアーサーが、心配そうな顔で二人の前に膝をつく。瑞希に言われた通り手を出した二人は、自分たちの手のひらを見て驚いた。
子供らしいふくふくとした手のひらが赤くなり、薄い皮が剥けてポツポツと滲んだ血が斑点のようになっている。尻餅をついた時に手をついたから、その時に擦りむいてしまったのだ。
特にアンネは、無意識のうちとはいえライラを庇ってくれたので、肘にも血を滲ませている。
自覚するとひりひり痛み出したそれらに、きゅうっと二人の眉根が寄る。
「大丈夫よ、このくらいなら二、三日すれば治ると思うわ」
瑞希は優しい微笑みを見せてから、二人の手のひらを綺麗に水洗いした。それからハンカチで水気を取って、持ってきていた軟膏を指先で適量掬い取る。
「気になるかもだけど、洗ったり拭いたりはしないでね」
「えっ⁉︎ だ、大丈夫です! あたしじゃお礼ができません!」
「えぇっ? 子供が何言ってるの、このくらい気にしないでいいのよ」
驚きを滲ませながらきっぱりと言い切った瑞希に、アンネだけでなく周りにいた子供たちも呆然と目を瞠った。
凍結した思考回路を無理やりに働かせて、恐る恐るとアンネがライラを見る。
「ラ、ライラちゃんのお家って、お金持ちなの……? もしかして、貴族様だったりする……?」
「? わかんない」
「わかんないって……だって、お薬って凄く高いんだよ?」
それを当たり前のように出すなんて、と信じられないように言うアンネに、ライラは謎が解けてすっきりした。
「あのね、お薬はママが作ってくれるの。ママは《フェアリー・ファーマシー》っていうお薬屋さんをやってるんだよ」
にっこり笑顔のライラに子供たちは声もなく放心し、あんぐりと顎を落とした。




