二手に分かれ
もう一度馬車に揺られて来た川は、先にも増して人口密度が高くなっていた。川遊びスペースは子供だけでなく大人も裾を捲り上げて足を浸し、少しでも涼を取ろうとしている。そんな中で約束の子供たちを見つけると、カイルとライラは小柄な体躯を活かしてすいすいと人混みの合間を縫って彼らに合流した。
「お待たせーっ」
「カイル、ライラ! 昼ご飯、ちゃんと食べてきたか?」
「うんっ。お魚食べたんだよ。デザートはなかったけど、フルーツジュース美味しかったの」
「この街の魚は美味しいからな!」
にかりとやんちゃそうな笑顔の少年が、彼らのグループのリーダーらしい。一見するとガキ大将のような印象を受けたが、他の面子より小さいことを気にしてか、カイルたちへの接し方は温かく優しい。良い子たちなのだと傍目からもわかって、瑞希はいっそう喜びが大きくなった。
アーサーと寄り添いながら見守っていると、視線に気がついたのかリーダー格の少年の目が瑞希を捉えた。
「なぁ、あの人たちは? 家族なのか?」
「うん、オレたちの父さんと母さん」
「親ぁっ⁉︎ えっ、兄弟じゃなくて⁉︎」
目を剥いて驚いた声を上げる少年に、けらけらと肩に座ったルルが笑う。アーサーと顔を見合わせて、瑞希は困ったように苦笑した。
悪意のない子どもの言葉は時に遠慮なく心を突き刺してくる。以前であれば瑞希は複雑な気持ちを抱えていただろうが、あまりにも頻繁に驚かれるものだから、もう慣れてしまった。
行くか、と言葉もなく腰に手を添えたアーサーに、気恥ずかしく思いながらも足を動かす。
靴を手に持って川に踏み込むと、冷たい水が瑞希たちの足を濡らした。川を流れて角が削られた砂や石は丸く、裸足で踏みつけても痛みを感じさせない。
瑞希たちが前に立つと、少年は丸い目をより大きく見開いて二人を見上げた。大人と子供、小さくない身長差を瑞希は膝を曲げることで和らげる。近くなった視線に、少年の動揺が強くなったのが見て取れた。
どうしたら親らしく思われるのかわからなくて、瑞希はとりあえず思ったことを口にしてみた。
「こんにちは。今日は、この子たちと遊んでくれてありがとう」
「えっ、あ、こんにちは。えっと、オレたちも、一緒に遊ぶの楽しいから」
ひとつひとつしっかり応えようとしてくれる少年に、瑞希はますます顔を綻ばせる。
「私たちは川釣りに行くんだけど、もし何かあったら教えてね」
「うん!」
元気いっぱいに応えた少年は、じゃあねと瑞希に手を振って、カイルとライラの手を引いた。
器用に人を避けて水飛沫を散らしながら、他の子たちも奥の方へと移動していく。
「じゃあ、アタシもそろそろ追いかけるわね。ミズキたちも楽しんできて」
「ええ、頑張って大物釣り上げるわ」
「うーん……あんまり期待はしないでおくわ」
つれないセリフを言い残して、ルルが人々の頭上を飛んでいく。
くつくつと喉を鳴らすアーサーに、瑞希は拗ねたように睨んだ。
「もう、ルルったら。きっとびっくりさせるんだから」
「なら、まずは道具を借りに行かないとな」
「あ」
そうだった、と思い出したように零す瑞希に、アーサーはいっそう肩の揺れを大きくした。




