子供たちの困り事
スープに舌鼓を打っている間に、魚料理が運ばれてきた。皿から少しはみ出してしまうほど大きな魚一匹の塩焼きや、手のひらよりも大きな切り身のムニエル。フォークを当てればパリッと音がして、じわりと滲み出た脂が小さな水溜りを作る。
小皿に取り分けた料理はどれも絶妙な味付けがされていて、十二分に引き出された素材の味に、堪らないと瑞希は幸せそうに頰に手を当てた。
そうして大満足の昼食を終えて、少し苦しくなった腹を落ち着けるのも兼ねて食後の飲み物で一息いれていた。残念なことにこの店ではスイーツを扱っていないそうなので、フルーツジュースがデザート代わりだ。
「さすが、新鮮なだけあったわね。どれもシンプルな味付けなのに、すごく美味しかった」
「あぅぅ……もうお腹いっぱぁい……」
苦しいと言いながらも満ち足りた表情のカイルに笑い声が口々から溢れる。
「そんなに腹を膨らませて、ちゃんと動けるのか?」
「できるもん! ……あと、もう少し休んだらねっ」
正直者のカイルに、揶揄っていたアーサーは「本当か?」なんて言いながらますます楽しそうに目を細めた。
カイルの隣ではライラも、同じように苦しそうにしながらもふんわりとした笑顔を浮かべていた。
小食なライラも、今日は少し遅めの昼食だからかいつもより食べる量が多かった。それを「偉いわね」とルルに褒められながら、ライラの小さな手がモチの背を撫でる。
しかしそのモチは、一足先にりんごを食べたはずなのにここでもたっぷりのサラダも食べた大食漢だ。まるまるっとしているとはいえ、小動物の域を出ないその体の何処に食べ物が収まるのかは謎である。
「食後に聞くのもどうかと思うけど、夕ご飯はどうする? 街で食べてくでも良いし、家に帰ってから遅めのご飯でも良いけど」
「釣果を見て決めれば良いんじゃないか? あまり良くなかったら干物でも買って、今晩さっそく炙ればいい」
「そんなにお酒飲んでたら、アーサーもそのうちロバートくらいに太っちゃうんじゃない?」
家なら酒も遠慮なく飲めるから大歓迎だと下心を覗かせたアーサーに意地悪を言ったルルに、それはないと皆が口を揃えた。
ロバートの少々良すぎる体格に文句をつけるわけではないが、アーサーが彼ほどふくよかになるとは到底考え難い。
「でも、ぽよぽよな父さんもちょっと見てみたいよね」
「パパ、腕もお腹も固いもんね。あったかいけど、偶にゴンってして痛いんだぁ」
さも困り事のように頷きあう子供たちに、まさか鍛えたが故の弊害が出るとは夢にも思わず、アーサーは戸惑いを隠しきれない顔で瑞希を振り仰いだ。
「ミ、ミズキ……っ」
「これは、庇えないわ」
ごめんなさい、と頼みの綱にまで苦笑されて、アーサーは悲しそうにかくりと肩を落とした。




