眠り続ける子供たち
診療所に駆け込んできた二人と二人の連れてきた子供たちに、ロバートは飛び上がって慌てて棚から医療道具を引っ張り出した。
「こんな小さな子供がどうして……」
血管の浮き出た腕に点滴を刺しながら痛ましいと顔を歪めたロバートの言葉が耳について離れない。アーサーから事情を聞いたロバートは、二人を恐らく捨て子だろうと言った。
「よく、あることなんですか?」
「無いとは言えないな……。どういう事情なのかは知らんが、学会でもそんな話を聞くよ」
清潔なタオルで汚れを落とされた子供たちの顔色は土のような色をしていた。すっかり痩せ痩けてしまった頬を滑るように撫でて悲しげに目を伏せる。
「この子らが保護されたのは本当に幸運だった。こんな……あと数日でも遅れていたらどうなっていたことか」
嘆いて首を横に振るロバートに、二人は黙っているしかできなかった。あと数日……そんなもしもなんて考えたくもない。本当に良かったと心から喜んだ。
限界の境地に立たされている子供たちは、しばらく目を覚ますことはないそうだ。今は十分な休息が必要だった。目を覚ますまでは入院させて要介護だというのがロバートの下した診断だった。
「ご迷惑をおかけします」
そう言って頭を下げるアーサーにロバートはいいやと首を横に振る。苦しんでいる患者を助けるのは医者の義務だと言いきったロバートはとても頼もしかった。
「それよりお前さんらは、この子らをどうするかしっかり考えな。里子に出すにしても、先ずは行き先を決めてやらにゃならん」
アーサーはほとんど旅に出ていることが多いから子供たちの面倒を見るには不適格だ。ロバートの言う通り里子に出すとしても、瑞希でも子宝に恵まれず悩んでいるという人を聞いたことがない。里親を見つけるのは難しいだろう。
「ねえミズキ、お願いよ、この子たちを助けてあげて」
ルルが涙を零しながら懇願する。ルルが人間だったらきっと同じくらいの年頃だ。自分と重ねてしまうのだろう。ルルの願いは瑞希も考えていたことだから、一つ頷いて瑞希はロバートを見返した。
「なら私が引き取ります。幸いうちなら広いし、蓄えもあるから大丈夫だと思います」
「ミズキ!?」
アーサーがひっくり返った声を上げて瑞希を凝視する。ロバートは一瞬表情を和らげたが、すぐにまた難しい顔をした。
「それはそうだが……いいのか? お前はまだ若いし、店のことだって……」
「若いって、私はもう三十ですよ? 結婚なんてもう諦めてますから、大丈夫ですよ」
この子たちを蔑ろにするような人ならこっちからお断りですと続けた瑞希に、確かにお前さんなら安心だからとロバートはようやく頷いた。
「よし、わかった。退院はこの子たちが流動食を食べれるようになってからだから、その間に準備を進めてくれ」
「はい。子供たちをよろしくお願いします」
深々と頭を下げる瑞希にアーサーは目を見開いていた。まさかこうなるとは、予想だにしないことだった。




