約束
さらさらと流れゆく川のせせらぎの音は、楽しいという感情はそのままに心を安らげてくれた。家で過ごすとは違う長閑さには自然と体の力が抜けて、えも言われぬ心地良さがあった。
川の流れよりも緩やかな速度で下る船は、しばらくすると水遊びに公開されていた辺りを通りがかった。カイルとライラが仲良くなったのであろう子供たちに「おーい!」と手を振られ、嬉しそうにブンブンと振り返す。あまりにも勢いよく両手を上げるものだから、船がぐらついて小さな水飛沫が上がった
「カイル、少し落ち着け。危ないだろう」
放っておけば立ち上がりそうなカイルに、困ったやつだと嘯きながらアーサーが窘める。仕置きとばかりにこつんと小突かれて、「ごめんなさぁい」とカイルが謝った。
「たくさんの子と仲良くなったのねぇ」
「うん! オレたちの、友達!」
自慢げで嬉しそうな表情をする子供たちに、見ている方も嬉しくなって口元が緩む。
川岸の方の様子を見るに、彼方も同じように思ってくれているのは明らかだ。どうやら彼らは地元の子供たちのようで、昼過ぎにもまた川で遊ぶ予定でいるらしい。
不意に、カイルとライラは不安そうに両親の顔色を伺い見た。
「あのね、お昼にも一緒に遊ばないかって。…………行っても、いい?」
「もちろんよ。せっかくできたお友達だもの、楽しんでおいで」
間を置かずに答えた瑞希に同意するように、アーサーも頷く。
双子はぱっと顔を明るくさせて、嬉しさを噛みしめるように破顔した。
ゆるりと、真っ直ぐ下りるだけだった船が進路を変える。棹を操る青年が注意深く周囲を確認して、船を網のかかった方へと進めていた。
「あんまり近くには行けないけど、話すには十分な距離だと思うよ」
にやりと口角を上げた青年に、カイルとライラがきょとんと瞬きする。それから、二人は船縁に手をついて、川の方へその身を乗り出した。
「ねー! お昼も、遊んでいいってー!」
大声で叫んだカイルに、網の向こうから歓声が上がる。子供たちのうちの一人が、口元に手を当てて叫び返した。
「ご飯食べ終わったら来いよーっ‼︎」
「わかったー!」
叫び合いが終わるとまた手を振られて、船が川幅の真ん中辺りに進路を戻す。
「おにーさん、ありがと!」
「どういたしまして。いやぁ、子供っていいですねぇ。可愛いや」
弟妹がいたらこんな感じなのかな、なんて言いながら相好を崩す青年に、「この子たちが可愛いなんて、分かりきったことだわ!」とルルが胸を張った。何を言っても聞こえないことはそれこそ分かりきっているはずなのに、「アタシの弟妹はあげないんだからねっ」と宣うルルに、瑞希は笑いを禁じ得ない。
ふふ、と噛み殺しきれず笑い声を漏らす瑞希に、ルルを見れない青年だけが不思議そうに首を傾げた。




