表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
238/478

舟遊び

 桟橋に出て、まず漕ぎ手の青年が船に乗る。その次に乗り込んだのはアーサーだ。剣を嗜んでいるからかしっかりと体幹が鍛えられているおかげで、不安定な足場でもすぐに体勢を整えられた。

 それから瑞希が手を引かれながら乗り込み、体勢が整ったところでカイルとライラも船に乗った。モチにも景色が見えるように、鞄はアーサーの膝の上に乗せられている。

 全員が腰を下ろしたところで、青年が棹を持ち上げた。


 「それでは、出発しまーす」


 青年の号令と共に、船がゆっくりと桟橋から離れる。川の流れに合わせて緩やかに動いているのに、船はあっという間に川幅の中心近くにまで移動した。


 「思ったより揺れが少ないのね」


 船といえば揺れが大きい印象を持っていたのに。

 意外そうに瑞希が呟くと、「運がいいんですよ」と青年が言った。


 「今日は風が優しいから揺れてないですけど、昨日はきつくて何度か中止になりましたから」


 舟遊びはこの時期のグラリオートでは風物詩だが、雨が降って増水したり、あまりにも風が強い時は安全のため中止になるらしい。


 「日によって違うの?」

 「時間によっても変わるかなぁ。海に行くともっと変化が激しいらしいよ」


 人から聞いた話だけど、と付け添えた青年に、子供たちはへぇえと感心しきりの声を上げた。

 熱心に話を聞いてくれる子供たちに、青年が嬉しそうに笑みを深めた。


 「観光のピークは夏だけど、冬のグラリオートも結構見物(みもの)なんだよ。冬の間はこの川が凍るんだよ」

 「凍っちゃうの⁉︎」


 カイルが大きな声を上げた。ルルとライラも、びっくり眼で青年を見つめている。青年は悪戯成功とでもいうような笑みを浮かべた。


 「川が凍るなんて、ただでさえ寒い冬が余計辛いわ」

 「外に出るのも嫌になりそうね……」


 眉を下げるルルと瑞希に、そうでもないとアーサーが説明を付け足した。


 「凍った川でスケートができたり、フロスト・マーケットが開かれたりするんだ。年によっては凍らないこともあるから、近隣住民のお楽しみだな」

 「あれ、知ってたんですね。お父さん、この辺りの人なんですか?」

 「以前滞在していた時に小耳に挟んでな。実際目にした事はないが」


 答えたアーサーに、青年はなるほどと頷いて、「それなら是非一度来てみてください」とにっこり笑った。


 「オレ、冬はスケートを教えてるんです。道具のレンタルとか、お安くしときますよ〜」

 「存外抜け目ないな」


 しっかり自分を売り込んでくる青年に、アーサーが呆れたように肩を竦める。それでも青年は悪びれもせず、「商売なんで」と開き直って強かに笑った。


 「でもアーサー、こういう人嫌いじゃないわよね」


 なにせ、ディックが良い例だ。変に小細工してくる人より真っ直ぐ物申してくる人をアーサーは好む。


 「ミズキ……」


 それを今言わないでくれ、と訴えてくる目に、瑞希はころころと目を細めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ