順番待ち
「お待たせ致しました、お次の方どうぞー!」
溌剌としたアナウンスに従って、前の方から人垣が動き出す。三十分ほど待って、次がようやく瑞希たちの番だ。
「船は四人乗りで良いとして、漕ぎ手はどうする? 私、やったことが無くて……」
「俺も無いな。なら、漕ぎ手も付けるか。その方が安全だしのんびりできるだろう」
「それもそうね。じゃあ五人乗りになるのかしら」
アーサーの言い分にもっともだと頷いて、瑞希は次のアナウンスを待った。
川辺の方からは子供たちの元気な声が絶えること無く響いてきている。初めはどうして良いのかわからずおどおどとするばかりだったライラも、今では笑顔で水遊びに興じていた。きっと傍ではルルが二人を支援していることだろう。
すっかりびしょ濡れになった子供たちに、昼食は温かい物にしようと決めた。
「お待たせ致しました! お次のお客様、どうぞーっ」
待ちに待った順番に、瑞希とアーサーは軽い足取りで間を詰めた。
カウンターに置かれた黒板の料金表を確認しながら、打ち合わせた通り漕ぎ手と、四人が乗れる船を頼む。
「でしたら五人乗りですね。ちょうど空いておりますのですぐにでもお乗り頂けますが、如何なさいますか?」
「このまま乗ります」
「かしこまりました。では、すぐにご案内致しますので少しずれてお待ちください」
てきぱきと仕事をこなしていく係員に頷いて受付所の脇に移動すると、案内役の係員がすでにいて、瑞希たちに軽く会釈した。彼が漕ぎ手もしてくれるらしい。
「四名様と伺っておりましたが……」
「ああ、今は川辺で遊んでいる。移動しながら呼びに行っても?」
「はい、もちろんです」
にっこりと人好きのする笑みを浮かべた漕ぎ手に先導されて、まずは川辺へ。
瑞希たちが近づいていくと、まず気がついたのはルルだっだ。それから、彼女に教えられたカイルとライラが顔を上げて、足で水をかき分けながら走り寄ってくる。
漕ぎ手が微笑ましいと相好を崩した。
「パパ、ママ!」
「オレたち勝ったよー!」
自慢げに笑う双子は両親に抱きつこうとして、けれど自分の状態を思い出しその足を止める。アーサーはやれやれと肩を竦めて、カイルを抱き上げた。瑞希はライラを腕の中に引き入れた。わぷっ、とライラが鳴き声のような声を上げる。
「わっ⁉︎ 父さん、濡れちゃうよっ」
「この気温だ、すぐに乾く。それより、頑張ったな」
腕に抱えられたまま頭を掻き撫でられて、カイルは驚きながらも満更でもないというようにはにかんだ。
「さて、お前たちが待ち兼ねた舟遊びに行こうか」
「うんっ! みんな、またねー!」
アーサーの腕の中で、カイルがバイバイと腕を振る。ライラも控えめに手を振って、遊んでいた子供たちに手を振り返されると嬉しそうに顔を綻ばせた。




