女心
荷物置きは座席の下にある。シートを持ち上げると中が空洞になっているので、その中に買い込んだ土産を詰め込んだ。広々とした席のおかげで、たんまり買い込んだ品々を詰めてもまだ半分も埋まらない。
「…………アタシたちの分のお菓子も買い込めそうね」
「ミズキの菓子も食べるのにか?」
神妙な顔をして呟いたルルに、アーサーが呆れ混じりに苦笑する。その言葉の先を勘繰ったのか、ルルがキッと眦を吊り上げてアーサーを叩いた。
アーサーはどうして叩かれたのか分からないとばかりに困惑した顔をするが、端で見ていた瑞希は、これは仕方ないと静観を決めた。そのすぐ傍では、ライラはぽやんとしているが、カイルはあーあと零している。続く言葉が禁句であることは、まだ幼い彼にも読み取れたらしい。
「ダメだよ、父さん。女の子は傷つきやすいから、優しくしてあげるものだってディック兄ちゃんが言ってたもん」
「? 乱暴に扱った覚えはないが……」
「そういうことじゃなくてね」
「アーサーの唐変木!」
ついにルルが吠えた。ルルはそのままカイルに飛びついて、柔らかな金髪の頭を撫でる。
「カイルはこんな女心がわからないような男になっちゃダメよ!」
「はぁーい」
あたかも真剣に言い聞かせるようなルルに、擽ったそうにしながらカイルが応じた。
どっちが上なんだか、と思いながらも、今回ばかりは分が悪いことを自覚して、アーサーは賢明に口を噤む。けれどまだ困惑から抜け切れていないようで、説明を求めるような目を向けられて、瑞希は肩を竦めて寄り添った。
「異性には言われたくない言葉があるのは、男の人も同じでしょう? ルルも調節くらい自分でできるし、必要なら私から言うわ」
「それは…………いや、そうだな。わかった、俺の失言だった」
潔いアーサーに、ふふふ、と瑞希が綿菓子のような笑い声をあげる。アーサーは目元を薄く赤らめていたが、顔を背けることはしなかった。
「今日は、ちょっとだけルルを甘やかしてあげてね」
「もとからそのつもりだ」
アーサーは断言して、じゃれ合う子供たちの方へと視線をずらした。カイルとライラに慰められてすっかり機嫌を直したらしいルルに、アーサーがほっと安堵の表情を見せた。
「ミズキ、アーサー。荷物は載せ終わったかい?」
ひょっこりと、他の御者や現地人に聞き込みに行っていたスティーブンが顔を覗かせた。
スティーブンは荷物が消えていることを確認すると、ポケットから長い紐の付いた鍵を取り出して差し出してきた。
「ほい、馬車の鍵だ。荷が出来たんなら渡しとかねぇとな」
「ありがとうございます」
「いろいろ聞いて回ったら、他の観光客はもそろそろ昼食に動き出す予定らしい。今なら船待ちも短いらしいが、どうする?」
「そうなんですね、ありがとうございます。それなら、今から川に行きます」
「あいよ。じゃあチビちゃんたちも…………耳がいいな」
いつの間にか集まっていた子供たちに、スティーブンが驚きながらも笑顔を浮かべる。きらきらと期待に満ちた目で見上げられて、スティーブンは顔を隠すように帽子の鍔を引き下げた。
「よし、みんないるなら馬車に乗り込んでくれ。船が待ってるぞー!」
硬いながらも興奮を助長するようなセリフに、子供たちは素早い動きで馬車に飛び込んでいった。




