営業時間
それから、瑞希はいつ馬車が来ても良いように店は開きながらも、薬作りを行うようになった。今週が終われば夜の時間は少なくなるため、予行練習も兼ねているのだ。特にこの頃は、冷たいものばかりを摂りがちなせいか、消化不良に悩む客が多かったことも理由として挙げられる。
化粧水の予約は、ガラス瓶が納品されるたび消化していった。あまりの予約数に一度や二度では消化しきれなかったのだが、その後も好評が続き、リピーターを多く獲得することができた。棚を開けてしまうことがしばしばあったのだが、夏の間はガラス瓶を定期購入することにしたため、今では店頭販売でしっかり回せるようになっている。
そんな風に、のんびりとしながらも一つ一つを熟しているうちに確実に時間は流れていった。気付けば一週間という予告期間もとうとう終わりを迎え、しばらく営業時間が変更になった。
午前中の営業には変更はないが、午後の来やすい時間帯に店が開いているということは、客たちにとって安心感を齎すもののようだ。連日の酷暑には変わりないが、午前に集中していた客の波も分散されていく。三日も経てば、瑞希たちにとっても仕事のしやすいペースが戻ってきた。
「ミズキ、ガラス瓶が届いたぞ」
「ありがとう。とりあえず、壁際とかに置いといてもらっていい?」
「わかった」
頷いてくるりとアーサーが背を向ける。聞いていた客たちは「おっ」と顔に喜色を浮かばせ、瑞希の許へと爪先を向けた。
そういえば今は品切れ状態だったと思い出して、瑞希はにっこりと笑みを浮かべる。
「化粧水、また買えるかい?」
「はい。お昼休みに作るので……夕方頃にはお求め頂けると思いますよ」
「さっすがミズキ、仕事が早い!」
客たちの囃し立てに大袈裟だと思うけれど、やはり褒められて悪い気はしない。照れたようにはにかんだ瑞希に、年配の客たちは穏やかに目元を和ませた。
「それなら、また夕方にも来ようかね」
「取り置きはできるかい?」
「はい、大丈夫ですよ。承ります」
各々が口に出せば、瑞希は嬉しそうに応える。これもこの店に来たくなる理由のひとつなのだと、本人だけが知らないのだから不思議なものだ。
温かな目を向けられているとは露知らず、瑞希は会計をとやってきた客に意識を向けた。
「ゼリーが二つと、スポーツドリンクが四つですね。お会計、二百二十デイルでございます」
瑞希は商品を紙袋に入れ、客に渡す。それから代金を受け取り感謝の気持ちを込めて頭を下げれば、客は満足そうに微笑んでカウンターに背を向けた。




