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貼り紙

 翌日から、《フェアリー・ファーマシー》では早速、営業時間変更の貼り紙を掲示した。停留所に掲示する分は、朝一番の便で運転手に渡してある。

 出入り口に大きく貼り出された知らせに目を留める客は多かったが、何より注目を集めたのはカウンターに置いたチラシだった。大人の字にしては不格好な字が並ぶそれは、双子の手習いにと書写してもらったものだ。会計に並んだ客たちは皆、チラシに微笑ましげに目を落とし、あるいは丁寧に折って持ち帰った。


 「こっちはいいね。風が熱くないし、気持ちがいい」

 「森が近いですからね。建物も此処だけなので、しっかり吹き抜けてくれるんです」


 話している間にも、ふわりと風が入り込んで店内に立ち込める熱気を攫っていく。客は心地良さそうに目を細めた。

 昨日の今頃とどちらが暑いのかはわからないが、今日は朝から客の数が多い。昼前には勝るとも劣らない気温になることは誰の目から見ても明白で、少しでも涼しい時間帯に用を済ませてしまおうというのが大衆の意見のようだ。

 さすがに長く暮らしているだけあり、昼が近づくに連れて日差しが強くなる。定期便を重ねるごとに、張り紙を見た客たちの顔に浮かぶ安堵の色は色濃くなっていった。

 第三便が帰る頃には売り切れになってしまっていることが多いゼリーは、休憩時間が増えるからと予め多く作っておいたのだが、それも午前の最終便を待つことなく全て売り切れた。

 買えずに肩を落とした客たちには、午後にもまた売り出すことを伝えると、次こそはと闘志を目に宿された。

 そんな遣り取りを何回か繰り返して最終便を尻目にくるりとプレートをひっくり返す。

 休憩前の後片付けを終えた後は、瑞希たちも暑さに気を滅入らせながら家に帰った。

 作り置きのアイスティーで喉を潤わせて、しばらくリビングでのんびりと体を休める。モチは毛皮もあって一際暑く感じられるようで、陰で涼をとっていた。緩くなったのか時々移動しては、溶けるようにぺしょりと床に懐く。暑さに弱い点といい、本当に雪兎のようだ。


 「ミズキ、今日の午後はどうするんだ?」

 「午後に売る分のゼリーと、あとは販促のポップとかも作るつもりよ」


 今日も営業開始すぐは事実上休憩になるだろうことを見越した瑞希に、勤勉だなとアーサーが苦笑する。何か用事があったのかと問い返せば、そういうわけではないらしく緩やかに首を振られた。


 「何か手伝えるか?」

 「じゃあ、果汁搾りを手伝って貰ってもいい? スポーツドリンクも作っておきたくて」


 伺いを立てる瑞希に、アーサーは二つ返事で頷いた。

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