二人の子供
「予定より長く時間がかかってしまったから、街道を外れて森を駆けていたんだ。その森の中でみつけた」
その時はまだ意識はあったらしいが子供たちは錯乱していて、保護しようと慌てて駆け寄ったアーサーに死に物狂いの抵抗をみせたという。負った怪我は全てその時のものだそうだ。
まさか子供を、しかもどうみても弱り切っているのに乱暴にするわけにもいかず、ずいぶん骨を折ったとアーサーは言葉の端々に苦労を滲ませた。
子供たちが気を失ってからは二人を馬の背に乗せて、木の実を見つけては果汁を搾って与えつつ歩いて帰ってきたらしい。
小さな傷が多いアーサーに比べて、子供たちは汚れてはいたが確かに怪我はしていなかった。瑞希はホッと肩を撫で下ろす。和らいだ表情にアーサーも肩の力を抜いた。
「とにかく、まずは医者に診せないと」
ここからならロバートの診療所が一番近い。そこに連れて行こうと提案すれば、アーサーは安心した表情で頷いた。
どうしたらいいのか本気で困っていたらしい。ありがとうと礼を言われて、瑞希は緩く首を振った。
「私は何もしてないわ。この子達が今も生きてるのは、アーサーが頑張ったからよ」
「だが俺はどうすればいいのかわからなかった。助けてもらって礼を言うのは当たり前のことだろう」
生真面目に返すアーサーをくすぐったいと思いながら、瑞希はそれ以上言うのを辞めた。今すべきことは押し問答ではなく子供たちを医者に診せることなのだから。
「診療所の場所はわかる?」
瑞希の問いかけにアーサーは否と首を横に振る。拠点をこの街に移してから短くない時間が過ぎたが、半分以上を旅に出ていたアーサーは瑞希以上にこの街の土地勘が無かった。
「じゃあ案内するわ。すぐに片付けを終わらせるから、こうやって子供たちにジュースを飲ませててくれる?」
アーサーは頷いて瑞希から水筒とガーゼを受け取る。ぎこちない様子で子供達の唇を湿らせる姿を見届けて、瑞希とルルは一気に後片付けに取り掛かった。整理など帰ってからでもどうにもなる。とにかく荷を纏めることに重点を置いて、ごめんねと乱雑を承知で馬に背負わせアーサーに駆け寄った。
「行きましょ、こっちよ」
瑞希の後に従ってアーサーも一歩を踏み出す。ルルは子供達の周りを飛び回りながら、もうすぐだからね、頑張るのよ、と必死に呼びかけていた。




