お疲れ様です
営業時間変更の相談について、返事が来たのはその日の最終便の時だった。予想以上に早い返答に、瑞希は驚きながらも書面に目を通す。
結果は承諾。変更内容も、瑞希の提案通りで問題ないとのこと。変更日が決まったら改めて連絡を、と書き添えられたそれを、瑞希は大切に折りたたんだ。
「ありがとうございました。組合の皆さんにも、宜しくお伝えください」
「いやいや、こちらこそ。そんじゃ、また明日もよろしくね」
運転手ともお互い安堵の笑顔で別れ、瑞希はほっと一息吐く。馬車の出立を見送っていると、アーサーが店からひょっこり顔を覗かせた。
「どうだった?」
「大丈夫ですって。いつから変更するか、また考えなきゃ」
やることがいっぱいだわ、と困り顔をする瑞希はそれでもどこか楽しそうに見えて、アーサーは優しく目尻を下げた。
昼に余裕があったとはいえ、来店者数には大きな変動はない。例日のように入り込んだ砂埃を掃き出して、いつもより減り方が激しかった商品を補充していく。
連日の暑さに客たちも参っているようで、健康促進商品の減りが特に目立つ。明日もまた暑くなるだろうからと、追加分を多めに作ることが決まった。
後片付けを手早く済ませて家に帰り、瑞希はそのまま少し休むことにした。アーサーにはカイルを連れてお風呂を先に済ませてもらう。ライラも一緒に頼むのは憚られたので、彼女には庭先でモチの散歩をお願いした。
人気が無くなったところでぽすんとソファーに体を預けると、柔らかく押し返される。背もたれを利用してぐっと背伸びすれば、関節がぱきっと音を鳴らした。
「今日はミズキもお疲れねぇ」
「まぁ、ね。これでも結構気を揉んだもの」
揶揄い混じりのルルに、瑞希は恥ずかしそうにしながら言い返した。いきなり客足が途絶えることはさすがに無いだろうと、頭では分かっていても心は不安でいっぱいだった。自分から働きかけることもできず待つだけの時間は、肉体的な疲労より余程疲れる時間だったのだ。
ソファーに沈む瑞希に、「そうね」と言いながらもルルは笑いを絶やさなかった。
「営業時間、ちょっと変えるんでしょう? いつから変えるの?」
「うーん……。告知期間もほしいから、早くても一週間後かなぁ」
露天商から開店までの告知期間も一週間だったが、話が広まるのは早かった。あまり長く間を置いてもまたすぐに変更することになってしまうから、今回も同じ期間で問題無いだろうというのが瑞希の見解だ。
ルルも異論は無いようで、了解と一つ首肯した。
少し休んだおかげか体の重だるさが少し楽になって、瑞希は立ち上がりキッチンに足を向ける。ルルは蝶のように瑞希の肩にとまり、それに付いていく。
「今日のご飯は?」
「デザートがシャーベットだから、お肉にしようかな。肉団子とかどう?」
「異議なーし」
冗談めかしたルルに瑞希も堪らず笑い、じゃあ決定ねと必要な材料を取り出した。
どれだけ疲れていても、食事はしっかり三食が食育の基本。今日の食事が明日の自分を作るのだ。
家族の健康を支えるため、瑞希は今日も腕捲りして調理を開始した。




