販売開始!
五人で作った化粧水を売り出したのはその翌日だった。置き場はケア用品の棚と、誰もが必ず目を向ける会計カウンターの二箇所。
棚に、あるいはカウンターに並んだ瓶に、新商品かと客が手を伸ばす。
「これはどんな効果があるの?」
「日焼けした後の火照りを和らげてくれます。よかったら試してみてください」
テスター用の化粧水を取り、客の手に少量乗せる。すっきりとした涼やかな香りとひんやりした感覚に、試用した客は心地よさそうに目を和らげた。
夏の日差しで多少客足が遠のいたが、《フェアリー・ファーマシー》の店内には相変わらず客が多い。窓を開けていても熱気が籠もる店内で、ミントの香りが広がると少しだけ暑さが和らいだような錯覚が起きた。
試用した客は直にそれを感じ、嬉しそうに瓶を手に取る。涼しげな香りに誘われて、辺りにいた客も興味を持った。
甘い香りでないこともあって、男性客でも手を伸ばす人は少なくない。日焼けしたところに付けてみては、満足そうに目を細めて瓶を持っていった。
ほのかにしかなかった匂いが、使われるたびに強くなる。吹き込む生ぬるい風さえ冷感を強める一助となった。
「これで十本目だったかしら。よく売れるわねぇ」
「日焼けの火照りって地味に続くから、気になるのよ」
アスファルトの照り返しがない分程度は低いが、日焼けと火傷は似たようなもの。炎症を抑えなければ違和感はなくならない。
自分もさんざん悩まされたのだと臨場感たっぷりに零す瑞希に、想像してしまったルルは痛そうに顔を顰めた。
「人間って強いのか弱いのかわからないわね」
「両面あってこその人間なんじゃない?」
はぐらかすような言葉だが不思議と説得力があって、ルルはふぅんと曖昧に相槌を打った。
瑞希は次の馬車が来る前に、とカウンター陳列分を補充していく。棚に並べている方は、アーサーが補充してくれていた。
ルルはひらりと翅を動かしアーサーの許へ飛んだ。
「アーサー、他に何かいるものある?」
「こちらは大丈夫だ。ライラとカイルの方も聞いてやってくれ」
「了解〜」
言うが早いか、ルルは器用に人の間を縫って飛んでいく。あっという間に小さくなった背を、アーサーは元気なものだと感心しながら見送った。
出入り口まで飛んだルルはそのまま翅を動かして双子の目線の高さをキープする。
「調子はどう?」
「結構いいよ。あとは、んー……スポーツドリンク、今日はちょっと減りが早いかも」
スポーツドリンクは販売用とサービス用と分けている。販売用も売れているのは確かだが、サービスの方はおかわりを頼んできた人が複数いたらしい。
「カイルとライラは大丈夫? ちゃんと水分補給するのよ」
「わかってるよ。ルル姉もね」
言いながらスポーツドリンクを渡されて、ルルは喜んでそれを受け取った。こくこくと喉を通していけば、心なしか気分もすっきりする。暑さには強くても喉は渇くのだ。
「ん、ごちそうさまっ。じゃあ追加分カウンターに持って来ておくから、後で取りにきてね」
「うん、よろしくね」
ぴゅーっと飛んでいった姉の背を見送って、カイルはさてと手元に向き直った。
昼休憩まで、先は長い。




