目は口ほどに
「ああ、本当にいた。こんにちはミズキちゃんたち、よく来てくれたね」
「エドワードさん、こんにちは。お邪魔しています」
わざわざ出向いてくれたのは、この店の店主のエドワードだ。ドリンクと一緒にやってきた彼は嬉しそうに微笑んでいる。
今でも店の席は殆ど埋まっているが、ピークは朝や夕方の比較的涼しい時間帯らしい。夏のこの時間にも客が来るなんて、今までは滅多になかったそうだ。
「炭酸ジュース、本当によく売れていてね。お陰様で繁盛させてもらっているよ」
「お役に立てたなら良かったです」
和やかに話している間に、カイルとライラはそれぞれの炭酸ジュースを飲み比べていた。
この店で出している炭酸ジュースは、はちみつレモンとミックスベリーの二種類。
カイルが気にしていたヨーグルト風味のものはこの店にはなかったが、どちらの味も気に入ったようでにこにこ上機嫌だ。
エドワードは双子の笑顔にほっこりと相好を崩し、ゆっくりしていってくれと言い置いて店の奥に戻っていった。
「相変わらず、ミズキは人付き合いが上手いな」
「そう? 普通だと思うけど」
ことりと首を傾げたミズキに、アーサーは苦笑を浮かべた。
しかし彼だって人付き合いが下手というわけではないとミズキは思っていた。
ダグラス領というか、この街からも出たことがないミズキと違い、アーサーはいろんな街を回っていた。その度に友人や知人もできただろうから、彼の方が上手だと思う。
そう言うとアーサーは照れたような、けれどまだ納得できていないような微妙な顔をするので、素直じゃないなぁと思いながらミズキはアイスティーを口に含んだ。
「…………それならミズキ、今度どこかに出かけてみるか?」
唐突に言いだしたアーサーに、ミズキは思わず彼を見上げた。
「どこかって、旅行ってこと?」
「ああ。少し離れたところに避暑地として有名な街がある。大きな川が流れていて、舟遊びもできるらしい」
「いいわね、楽しそう」
前向きに応えたミズキに、アーサーがそうかと目元を和ませる。
馬車を頼めば日帰りもできる距離にあるらしく、店の定休日なら気兼ねなく遊べるだろうということだった。
お出かけの気配を察知して、子供たちがきらきらと期待の眼差しを二人に向けていた。
ミズキがにっこりと笑う。
「お船、乗ってみたい人ー?」
楽しげな声で尋ねれば、「はーい!」と勢いよく手が挙げられる。いつもはお姉さんらしく振舞うルルも、この時ばかりは無邪気だった。
元気の良すぎる返事に、周囲のテーブルから笑い声が聞こえる。不快には思われなかったようだがマナーとして小さく頭を下げれば、気にするなと微笑ましそうに笑顔で返された。
「じゃあ決まりね」
帰るまでの予定に馬車の手配も付け加えて、瑞希が明言する。
初めての小旅行に胸を踊らせる子供たちに、瑞希とアーサーは穏やかな表情でそれを見守っていた。




