怒る時は怒る
「えっ、わっ、どうしたの!? 傷だらけじゃない!!」
どうやらたった今旅から帰ったかところらしいアーサーは馬を引いていたが、その有様を見た瑞希はびっくりして露天の中から飛び出した。久しぶりに会ったアーサーは、何があったのか全身ボロボロだった。
傷のひとつひとつをよく見ると、負ってから大分経っていることがわかった。どれも瘡蓋ばかりだが、手当はちゃんとしたのだろうか。心配そうにする瑞希に、ちゃんと薬は塗ったとアーサーは戸惑いながら自己申告した。
「でも本当にどうしたの? 小さいとはいえ、こんなにたくさん怪我なんてして……」
転んだりした際にできる傷口とは違うそれは人為的なものだ。もしかして野盗にでも襲われたのかと案じる瑞希に、野盗よりもずっと手強いとアーサーはしかめっ面をした。
「怪我の原因はあいつらだ」
むっすりとしたままアーサーが顎で馬を指す。自分よりもあちらをどうにかしてほしいと請うアーサーに、瑞希もルルも首を傾げて示された方を見た。
その先にいたアーサーの馬は相変わらず利口で、話している間も大人しく待っていた。こちらは見る限り怪我は見当たらないし、『あいつら』という複数を指す言葉にもそぐわない。ではどういうことかとさらに首を傾げた瑞希とルルは、その背に乗せられたものに気づいてギョッと目を丸くした。
「こ、こども!?」
馬の背に乗せられていたのは、ぐったりとがりがりに痩せ細った子供だった。髪の長さを除けば鏡合わせのように瓜二つの顔をした彼らは過言でなく骨と皮しかない。どうみても餓死寸前だった。
「ミズキ、りんごジュース! ガーゼで湿らせながらゆっくりあげて!」
ルルが叫ぶように指示を飛ばす。瑞希はすぐさま荷物の中からりんごジュースを取り出して、言われた通りにガーゼで唇を湿らせるように少しずつ与えていく。意識のない、しかももう何日もまともに食事をしていない人にはいきなり水を飲ませるだけでも危険が伴う。この処置は繋ぎでしかないが、これが今できることだった。
「こんなになるまで放っとくなんて、いったい何があったの?」
「何と言われても……見つけた時にはもうこの状態だったんだ」
初めて見る瑞希の険しい顔にたじろいだアーサーは、困惑しながらも躊躇いがちにそう答えた。




