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炎天

 双子を連れてリビングに戻ってきたアーサーは、やけに上機嫌だった。ミントの化粧水は随分彼のお気に召したらしい。


 「アーサー、今日ちょっと街に行こうと思うんだけど……」

 「買い出しか?」

 「うん。あと、工房に瓶とコルクの発注もしたいの」


 プラスチックのまだないこの世界で、密閉容器は専らガラス瓶だ。樽も使うがそれは業者向けで、個人や家庭は瓶に入れられコルクで蓋をされたものが流通している。

 今回新商品として売り出すことにした化粧水も、同じく瓶に詰めて売り出すつもりなのだ。


 「それなら、先に発注をしてからにしようか。その後でディックの所に寄って、買い出しだな」


 ディックの分の化粧水はアーサーにはお見通しだったらしい。確定事項のように告げられて、瑞希は降参とばかりに両手を挙げた。


 「カイルとライラはどうする? お買い物、一緒に行く?」

 「行くー!」


 ぴったり揃った回答に、仲良しねぇとルルが笑った。

 夕飯は、外食の案も出たが夏は夕方から酔っ払いが増えるらしく、家で作ることにした。

 今日は事前に馬車を頼んでいないから街までは徒歩だ。日差し対策に帽子をかぶる。帰りの荷運びに馬も連れて行くことにして、せっかくだからとモチも一緒に連れて行くことにした。布に包まったモチは暑そうなので、ルルの魔法で風通しを良くしてもらった。

 できるだけ木陰があるところ歩いて街に入ると、軒下やシェードの下にばかり人が集まっていた。


 「みんな、大丈夫? どこかお店に入って休憩しようか」

 

 三十分程度の道のりでも、この暑さではきついものがある。歩幅の小さい子供にはそれは一入(ひとしお)だろう。案の定、カイルとライラは本人たちは自覚していないが頰を薄っすらと上気させていて、五人はひとまず飲食店に入ることにした。

 店の出入り口付近の席が空いていたのでそこに座り、忙しなく動き回る店員に声をかける。同じ日陰の中でも、腰を下ろしている方がいくらか楽に感じた。

 お冷とおしぼりを持ってきてくれた店員にそれぞれ飲みたいものを注文する。店脇の日陰に止めた馬にも水をお願いすると、二つ返事で引き受けてもらえた。

 よく冷えた水で喉を潤すとすうっと体内に溶け込んでいくような感覚がして、自分も喉が渇いていたのだと初めて自覚した。

 

 「こんなに暑くて、集落のみんなは大丈夫なの?」

 「アタシたちはへっちゃらよー。集落も、森の奥にあるから結構涼しいし」

 「あ、なるほど。確かに涼しそう」

 「日陰だもんね。風とか吹いたら気持ちいいんだろうなぁ」


 羨ましいという声に応えるように、ルルが魔法で風を呼ぶ。外で浴びていたよりもひんやりとした風が吹き抜けて、周囲の人々も心地良いと表情を和らげた。


 「この分だと、帰りは日が傾いてからの方がいいわね」


 この炎天下をもう一度歩いて帰るのは御免被りたい。自分に正直になって主張する瑞希に、四人は声もなく同意した。

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