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ディックとランチタイム

 「うっわ、目の前にすると余計美味しそう」


 いくらかトーンの上がった声で言うディックに、瑞希が嬉しそうに目を細める。双子も席について、今日はいつもとちょっぴり違ったランチタイムだ。

 ルルは、残念ながらディックと一緒では食べられないのでモチとキッチンでランチタイムだ。双子は至極残念そうにしていたが、「モチの毛並みを堪能しながら食べるからいーのよ」という一言ですぐに羨むような目に変わった。さすが姉と言うべきか、弟妹の扱い方をよく分かっている。

 今日の献立は生姜を香らせた野菜たっぷりのコンソメ粥と、トマトとキュウリのレモンマリネだ。足りなかった時用にフィッシュ・アンド・チップスも用意した。

 まずはとレモンマリネに手を伸ばしたディックの顔が、きゅうっと酸っぱそうになる。それをケラケラと笑いながら手を伸ばしたカイルもすぐに同じ顔をして、ディックに笑われていた。


 「アーサーといい、チビたちといい、毎日こんな美味しいもの食べてるのかぁ……」

 「おやつもあるんだよ」

 「デザートじゃなくて?」

 「それはまた別なの」


 大好きだとふわふわはにかむライラに、マジかぁ、とぼやきながらディックがその頭をかいぐり撫でた。すらりと伸びた腕は日に焼けて少し赤らんでいる。

 撫でられてますます綻んだライラの笑顔を、いいなぁとカイルが羨ましそうに見ていた。


 「そういえば、今街がすごいことになってるよ。炭酸ジュース、大成功。どこの店もほとんど満員なんだ」


 オレもよく飲みに行く、と言うディックに、それは良かったと瑞希が微笑む。どんな物があったのかと問えば、思いの外多いアレンジが彼の口から飛び出した。複数のアレンジを売っている店がほとんどらしい。中には牛乳と混ぜた店もあったと面白おかしく語られた。


 「兄ちゃんはどういうのが一番好きだった?」

 「オレ? んー……ああ、コーヒーと混ぜたやつ。最初はびっくりしたけど、ビール飲んでるみたいで美味かったよ」


 こだわりコーヒーが自慢の喫茶店が出したらしい。

 地球でも一時期話題に上がったと懐かしむ瑞希とは対照的に、コーヒーもビールも飲めないカイルは顰めっ面をしていた。代わりにアーサーが興味を持ったようで、店の名前を聞いていた。

 ますます膨れっ面になった弟分に、揶揄いすぎたかとディックが苦笑いを零す。


 「カイルは、マリッサ婆さんの所なんてどうだ? オレンジたっぷりのとか、ヨーグルト風味のとかあったぞ」

 「! 美味しそうっ」


 ころりと機嫌を直したカイルにまた笑いながら、それぞれ匙を進めた。全員の皿が開いたら、デザートにパンナコッタのオレンジソースがけ。


 「もー、オレもここで暮らしたい……」

 「却下。帰れ」


 素気無くアーサーが切り捨てる。

 足元には食事を終えたらしいモチがルルを背に乗せてやってきて、構えとばかりに双子の足にじゃれついていた。仕方ないなぁ、とまんざらでもない顔でご馳走様をした双子を尻目に、ルルがひらひらと翅を動かして瑞希の肩に止まる。


 「ディック、どんどん変わっていくわね」

 「良い方に、だから良いんじゃない? 間違えかけたらアーサーが叱るわよ」


 きっと鉄拳ならぬ鉄剣制裁よ、なんて真面目な顔をして笑わせてくる瑞希に、それは見物だとルルがころころ笑い声を響かせた。

 それを目にすることはないだろうと、二人とも確信していた。

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