小さな失敗
日中の時間も長くなり、その分気温も上がってきた。
今年は例年よりも暑さが激しいようで、スポーツドリンクの販売提携を結んだ各所から売り上げについての報せが続々と届くようになった。医師のお墨付きと、《フェアリー・ファーマシー》発案ということで興味を持った人々が購入し、口コミで評判が広まっているらしい。また鍛冶場や工事現場などから大口で定期購入の注文も入ったそうで、丁寧なお礼状も頂いた。
もちろん、《フェアリー・ファーマシー》でも、同じくスポーツドリンクの売れ行きは好調である。
《フェアリー・ファーマシー》は街から馬車で移動する程度の距離にあり、移動中はずっと熱気に晒されることになる。そのため新商品の試飲と客たちへの水分補給を兼ねてスポーツドリンクをサービスティーの代わりに提供したところ、美味しいし飲みやすいと好評価を得るに至ったのだ。
話を聞いてみると、連日の猛暑に水を飲むことさえ億劫になっていた人もいるらしい。街の薬屋でも買えることを伝えれば、嬉しそうに相好を崩された。
そうして夏に向けての準備をそれぞれで進めている中、瑞希にはまだ悩みがあった。
「うーん…………」
「夏らしい物、ねぇ……」
首を捻るのは瑞希とルルだ。その傍ではカイルとライラが同じくうーんと首を傾げている。
スポーツドリンクを商品化したは良いものの、“どこでも買える”ようにしたことで、それを目当てに《フェアリー・ファーマシー》に来ようとする客を掴めなくなったのだ。そのため、瑞希はまた新商品の開発に頭を悩ませることになったのだ。後悔はしていないが、困ったことには変わりない。
「夏に入って、何か変わったことってあったっけ?」
「……暑くなった?」
「ゼリーがよく売れるようになった」
「あ、果物がよく売れるっておばさんが言ってたよ」
四人で考えてみるが、事実ばかりは上がってもやはり妙案は浮かんでこない。
ルルの言う通りゼリーの売り上げは上がっている。その分作る量を増やしたのだが、それだけではやはり押しが足りない。
考え込む四人も外気による暑さでじっとりと汗を滲ませていて、ルルが魔法で風を動かした。そよそよと肌を撫でられると、汗をかいた分ひんやりと感じる。
「こういう涼しさも買ったりできたら良いのに」
「父さんと兄ちゃんが大喜びだね」
確信を持ったカイルの発言に、違いないと三人で笑う。
屋内で座っているだけでも汗が滲む暑さだというのに、窓の向こうからは照りつける日差しの中で剣術の稽古に励むアーサーとディックの撃ち合う音が聞こえてきていた。
二人の稽古は今もなお続いている。ディックは鍛錬の甲斐あって今では怪我の数も減り、体格もがっしりとしてきた。
しっかり運動する彼らは、その分食事もよく食べるので夏バテ知らずだ。対して、子供たちはと言えば。
「お昼ご飯、何か食べたい物ある?」
「さっぱりするのがいいなぁ」
「うん……暑いし……」
できるならゼリーをご飯にしたい、なんて言い出しそうな双子に、ルルは仕方ないと苦笑しながら風を少し強くした。乱舞することは減ったが、弟妹に甘いのは相変わらずなのである。




