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スポーツドリンク、お披露目

 さて。アーサーの予想通り、翌朝から瑞希の下には続々と返答が届き始めた。予想外だったのは、説明会前から協力を受け入れる返事が多かったことだ。

 先に企画がスタートした炭酸ジュースは、まだ販売されてはいないものの周辺の住民たちの注目の的になっているらしい。その影響も、もしかしたら多少あるのかもしれない。

 改めて会場の確保に役場を訪れた時には、また特産品かと役人に期待に満ちた目を向けられたのは記憶に新しい。

 そうして迎えた説明会の日、瑞希は逸る心臓を少しでも落ち着けようと何度も深呼吸を繰り返していた。少し離れたところでは、手伝いに来てくれたアーサーや子供たちが激励の眼差しを瑞希に向けている。

 参加者たちの前に立てば、前回とは違う大人数からいくつもの視線を向けられた。それに尻込みしそうになるのを内心で叱咤して腹に確と力を入れた。


 「--お待たせ致しました。これより、スポーツドリンクについての説明を始めさせて頂きます」


 震える指先とは裏腹に、ぴんと張りのある声が会場内に響く。

 ざわめきが静まったことを確認して、まず口にするのは前回と同じ挨拶口上。それから、今日の趣旨と改めての協力の依頼。

 その間にアーサーと双子にスポーツドリンクを配ってもらい、試飲してもらう。

 スポーツドリンクは、シトラスウォーターと比較しても味や喉越しに大差はない。そのため参加者たちの顔には落胆の色が僅かに滲んだ。

 これは、予想通りの反応。瑞希はロバートに目を向けた。かち合った視線に、互いに頷き合う。


 「こんなものか--そう思われた方も、少なくないと思います。では、何故こんなに大勢の人にお集まり頂いたのか。ご理解頂くために、街で診療所を開かれているロバート医師にご説明頂きます」


 打ち合わせ通り、ロバートが瑞希と入れ替わり大衆の前に立つ。学会などで場慣れした彼は人々の圧に怯むことなく、挨拶口上から入り説明を開始した。

 まずは人間の排出する体液についての知識を再確認。それから、塩分を補給せず、水分のみを補給した場合の危険性についての話に流れていく。医者の口から語られる人体の複雑さには説得力があった。

 そして、ロバートがスポーツドリンクを掲げる。


 「このスポーツドリンクで優れているのは、含まれる塩の量のバランス。さらに、砂糖を過不足なく加えることで、飲みやすくするだけでなく、水分補給の効率を上げているという点にあります」


 参加者たちが改めて手元のスポーツドリンクを見た。何の変哲もないシトラスウォーターと認識していた物が、一瞬にして重宝すべき物という認識に変わる。


 「何故、これを薬屋で売るのでしょうか? 飲料ならば飲食店で売るのが一般的ではないでしょうか?」


 質問したのは隣町の薬屋の一人だ。彼の質問に、何人かからも確かにと同意の声が上がる。

 瑞希は再びステージの中央に立った。


 「質問にお答えします。薬屋の皆さんにお声掛けした理由について、第一に、体調不良の際高確率で訪れるのが薬屋だからです。そして第二に、分量の正確さが必要であるということ。この二点から薬屋に分があると考え、皆さんにお声掛けしました」


 瑞希の回答に、納得がいったのか何人かが一人頷く。

 すると、別のところから声が上がった。


 「このレシピを、幾らで提供するつもりですか?」


 この質問は、少し離れた村の薬屋からだ。その村には彼の店しか薬屋がない。是非ともレシピを入手したいと脳内で金策を巡らせている彼に、瑞希はあっさりと答えを口にした。


 「レシピ料は頂きません」


 きっぱり、はっきり。言い切った瑞希に、会場内を大声が揺らした。

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